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AI関連技術に関する特許審査ハンドブックの追加

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 IOT関連技術、AI関連技術に関する特許出願の審査ハンドブックに事例が追加されたようです。
  特許庁ウェブサイトのこのページの一番下に参考資料としてまとめられています。

 AI関連では、
・事例3-2:リンゴの糖度データの予測に機械学習を適用した事例
・事例2-13:音声対話システムの対話シナリオのデータ構造
・事例2-14:宿泊施設の評判を分析するための学習済みモデル
・事例31:車載装置及びサーバを有する学習システム
・事例32:製造ラインの品質管理プログラム
が追加されたようです。

 

・事例3-2
 この事例は、「所定期間分のリンゴの糖度データ及び過去・将来の気象条件データを入力として、将来の出荷時のリンゴの糖度データを予測して出力する」特徴を持つ請求項が「発明」に該当する例です。この請求項の例では請求項に人工知能関連技術は明示されておらず、従来の請求項のスタイルと何ら変わりありません。ソフトウェア関連の審査基準からして明らかに発明に該当すると言えるでしょう。本事例が追加された意義は、予測が機械学習であるという点にあるようです。請求項に機械学習は現れないのですが、明細書の課題解決手段には、「予測のための分析が機械学習で行われる」ことと、「機械学習の実現法」と、が開示されていることが想定されています。
 機械学習を利用した予測について請求項を作成する際には、多くの場合、この請求項のスタイルが採用されると思います。以前のブログにも書いたように、多くの人工知能関連技術において、入力データを決定することが発明であり目的を達成するための重要なファクターといえますし、機械学習には技術的な特徴が現れない場合が多いと考えるからです。
 なお、ここで紹介した事例3-2は発明該当性を論じるための事例であるため、明細書内の記述の妥当性について特許庁は何も述べていないことに注意が必要です。実際に特許出願をする際には、例示された明細書の開示を超える内容が当然に必要になると考えます。
 例えば、明細書の開示例として機械学習の進め方が示されていますが、実際に特許出願をする場合にはより詳細に機械学習について開示すべきと考えられます。また、予測を行うための開示が機械学習のみであると、過度の一般化に該当するおそれもありますので、機械学習以外の予測法があり得るのか否か、機械学習以外の予測法が出願人にとって有用であるのか否か等を検討し、必要に応じて機械学習以外の予測法を明細書に書くべきと考えます。

 

・事例2-13、事例31、事例32
 事例2-13は、音声対話システムで利用される対話シナリオのデータ構造としての請求項が「発明」に該当する例です。
 事例31は、車載装置で行う画像認識のパラメータを、サーバ内での機械学習で改善する請求項の進歩性を否定する例です。
 事例32は、製造ラインの品質管理を行うために、サーバ内で検査結果と製造条件に基づいて機械学習を行う請求項の進歩性を否定する例です。
 これら例では、実施形態として人工知能や機械学習が使用されていますが、一読したところ、人工知能関連技術であることが発明該当性や進歩性の結論に影響するものではないようで、新たな気づきは得られませんでした。単に人工知能関連技術の事例を追加したという位置づけでしょうか。近日中に、特許庁審査官の方が追加事例を解説する研修会がありますので、この事例の位置づけを確認してこようと思います。

・事例2-14
 この事例は、学習済モデルという請求項が「発明」に該当することを示す例です。非常に有用な事例と思います。今のところ、特許庁は、学習済モデルというカテゴリーの請求項が「発明」に該当すると考えているようです。裁判所がどう考えるかは分からないものの、しばらくの間、学習済モデルという請求項がカテゴリーの不備で拒絶される心配はないため、出願戦略の選択肢が増えますね。この事例がなければ学習済モデルではなくプログラムとして請求項を作成したかもしれません。
 さらに、この事例ではニューラルネットワークの構造を特徴として捉えて学習済モデルの請求項を作成しています。学習によって変化し得る重み付け係数も請求項に登場しますが、入出力の関係を示唆するほど詳細に重み付け係数の特徴が請求項で規定されているわけではありません。ニューラルネットワークの構造の特徴を記述するために必要な程度に請求項で重み付け係数が規定されています。これらのことから、少なくとも、特許庁はニューラルネットワークの構造が「発明」に該当すると考えているようです。今後、人工知能関連技術を出願し得る出願人は、ニューラルネットワークの構造に新規性や進歩性があるか否かを常に意識する必要がありそうです。むろん、ニューラルネットワークの構造を出願することが出願人の出願戦略上有意であるか否かは常に検討する必要があります。

 以上が今回追加された事例でした。追加された事例においては、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシンが登場しますが、他の技術、例えば、強化学習についても追加してあれば良かったと思います(強化学習は、人工知能関連技術で重要な分野になるのではないかと個人的に感じています)。今後の追加に期待しましょう。

 


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