ここ数ヶ月、人工知能に関するニュースを聞かない日はありませんね。人工知能の開発あるいは人工知能を利用した製品の開発がここ数年ブームになっているようです。私自身は2年ほど前に「フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する」(ミチオ・カク著 NHK出版)を読んだことをきっかけに、人間の心や脳を工学的に再現しようとする試みが今までにないステージに到達しつつあることを知りました。この本にはSFと区別できないような研究も多数紹介されており、面白いと感じるもののリアリティのあることだと受け止めることはできませんでした。それでも、かなりの規模の資金が投入され、今までに無いドライビングフォースで研究が進んでいたのだという事実をはじめて知りました。
1年ほど前には毎日のように人工知能に関するニュースが報じられていたように思います。シンギュラリティなんかも頻繁に論じられていました。
技術に関するニュースには過度に期待を抱かせるものが多いため、普段であればほとんどのニュースを読み流します。しかし、連日のように報道され、中には驚くような成果も多かったため、「これはもしかしたら本物かもしれない。」このように感じるようになりました。この頃私自身はニュースで人工知能を知っている程度であり、人工知能とは何を指すのか?なぜ突然ブームになったのか?など、詳しい知識はありませんでした。そこで、人工知能に関する種々の本を読みはじめ、人工知能のプログラミングについても勉強しはじめました。
当時読んだ本の中では、ベストセラーになっていた「人工知能は人間を超えるか」(松尾 豊著 角川EPUB選書)が印象深かったです。今までに3回ほど読んだでしょうか。
この本では、「いまの人工知能は、実力より期待感の方がはるかに大きくなっている。」と冷静に分析されています。それでも、「現在の人工知能は「大きな飛躍の可能性」に賭けてもいいような段階だ。」と指摘されています。過度にセンセーショナルに書かない姿勢が信頼感を醸成しているように思えました。
この本によると、現在のブームにつながるブレークスルーは確かにあったようで、
「1層ずつ階層毎に学習していく」ことと
「自己符号化器を使う」こと
でブレークスルーを果たしたようです。
これらの要素技術を使うことで「特徴表現をコンピュータが自らつくり出す」ことが可能になった。これが大発明であるということでした。これは、例えば、コンピュータが画像認識をする際に画像のどの特徴に着目するのかを、コンピュータ自ら決定できるようになったということのようです。今までは、人間がどの特徴に着目するのか教えていたため、認識率が向上しなかったと。
一方、「深層学習 Deep Learning (監修:人工知能学会)」では、「今回のブレークスルーを生んだとされている「層毎の貪欲学習」も、実問題でうまくゆくことが経験的に知られてはいるが、(中略)、内部表現が局所収束を避けた最適なものになっているという保証はない」と述べられています。うまくいく事例はたくさんあるが、「「ブレークスルー」の原因はこれ。」というように明確に言い切ることは難しいのかなという印象を持ちました。
確定的なことは言えないと学者さんに言われるといまいちすっきりしないのですが、どうやらキモは自己符号化器を利用して層をディープにできたことにあるようです(このように私は解釈しました)。
いずれにしても、いくつかの要素技術の改善によっていくつかの分野で劇的な結果が得られたことによって今日のブームに至ったらしい。このあたりの事情を知ったのが1年ほど前でした。シンギュラリティや人工知能によって失われる職業などについても盛んに報道されていましたが、少し調べてみると「一般人も興味を持つような目に見える進歩がいくつかのブレークスルーによって達成された。」といった程度のことであり、人工知能が人間の知能を超えると思わせるような具体例は、私の知る限り、提示されていなかったと記憶しています。
従って、私は当時、「いくらなんでも近い将来に人間の能力を超える人工知能が誕生するシンギュラリティなんてあり得ないのでは?ターミネーターじゃあるまいし。」などと考えていました。「自己符号化器による層毎の学習で内部表現を学習できたと言っても、そのことと、人間を凌駕する人工知能との間には、相当な開きがあるよね?」と。「人工知能は人間を超えるか」の著者である松尾先生も「人工知能が人間を征服する心配をする必要はない。」と述べられており、「人間の能力を超える人工知能」の出現という意味でのシンギュラリティについて、多くの研究者は否定的だったのではないでしょうか。
ところが、、、最近は、有名な学者さんが「シンギュラリティが来ることにリアリティを感じない方が主流でしたが、だんだん、だんだん、本当だと思う人が増えてきてて。」などと発言されていらっしゃる(「よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ」(清水亮 著:KADOKAWA))。多くの人が予想していた速度を超えてすさまじい速度で技術が進歩しているということらしい。。。。
まじっすか?
これって、「シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき」(レイ・カーツワイル著 NHK出版)で述べられている指数関数的な成長が真実だということなのでしょうか。
私自身はシンギュラリティについてはやっぱり懐疑的(というか想像力が追いつかない)ですが、それでも「近い将来の変革に備えねばなるまい。」最近はこのように考えるようになりました。
まず特許実務家として、あらゆる産業で人工知能の利用価値が高まることに備えようと思います。ここ一年ぐらい続けている要素技術に関する知識の学習は今後も続けようと思います。また、人工知能に関する技術を権利化する際の特許戦略を常日頃から考えています。進歩性の訴求ポイント、明細書への書き込み、技術進歩の速さに対する配慮など、種々の点で従来の実務と異なる視点が必要のように感じます。
さらに、本当にシンギュラリティに達するか否かはともかく、人工知能が人間の能力を徐々に獲得していく世界に生きる一人の人間として自己の存在意義を問い続けようと考えています。人工知能にできない能力を備えた人間とはどういう存在なのかと。そして、人工知能が切り開く新しい世界が多くの人類にとって明るい世界であることを期待したいと思います。
※上述の書籍に関する解釈はこのブログの執筆者個人の解釈であり、分析は執筆者にあります。