自作サイクルコンピュータをアップグレードしました。
以前はホール素子でホイールの回転を検出していましたが、有線接続だとスマートではないと思い、BLE(Blue Tooth Low Energy)で無線化しました。
無線化のために、回転検出センサを変更しました。センサとしてはいろいろ採用し得るのですが、IMUを買っておけばなんとかなると思いまして、arduino nano 33 BLEを購入しました。arduino nano 33 BLEには、加速度センサ、ジャイロセンサ、温度センサなど、いろいろなセンサが搭載されています。他にも選択肢はありますし、ちょっとオーバースペックな気もするのですが、技適を満たすシンプルなデバイスを探すのが難しく、arduino nano 33 BLEに落ち着きました。加速度センサか、ジャイロセンサを使えばホイールの回転を検出できるだろうということで。
表示デバイスとしてもいろいろとあり得ますが、普段使っているandroidスマートフォンに速度を出力させることにしました。
以前使っていたLCDだと屋外で文字が読み取れないので。。。
ホイールのハブにarduinoを取り付け、ホイールの回転を加速度で検出し、ホイールの周長と1回転に要した時間から自転車の速度を算出する方式で試作したところ、うまくいきました。
びっくりするほど簡単に開発が完了してしまいました。速度をBLEで送信するためのプロトコルを学習するために多少の時間がかかりましたが、arduino側のプログラムは数日で完成しました。arduinoの開発環境で使えるサンプルが公開されているので、サンプルのコードを1行ずつ理解する作業を繰り返したところ、速度計のアルゴリズムをコーディングすることができました。
今回の構成において、スマートフォン側では受信した速度を表示させるだけなので、スマートフォン側のプログラムは極めて単純なもので充分です。そこで、スマートフォン側のプログラムはjavascriptで書いています。こちらも、javascriptを使ってBLE通信させるために少し学習が必要になりましたが、ネット上のサンプルプログラムを少し修正することで速度を表示させることができました。
arduinoは以下のようにフロントホイールに取り付けました。
arduinoがむき出しでは不安なので、arduinoと電池は、さらに梱包材でカバーしました。arduinoへの給電はUSBケーブルを使ったので、以前作成したレギュレータを流用しました。ところが、単3電池2本を使うため、結構大きく、全くスマートではありません。せっかく無線化したのに電池がこんなに大きくては台無しですね。。。
ちょっと映り込みがひどくて見づらいですが、速度計はこんな感じで、androidスマートフォンに速度のみを表示する形式になっています。写真は、フロントホイールを持ち上げて少し回して速度を7km/hにしています。
この速度計を使って少し走ってみましたが、概ね、妥当な速度を出力しているように思えました。自作したデバイスとともに走るとちょっとテンションUPですね。
今回、電子工作によっていろいろなデバイスを作成するのはとても簡単であることを知りました。
「やりたいこと」が明確であれば、大概の機能は、インターネットを使って実現方法を調べることができます。
サイクルコンピュータの自作は、自作過程でいろいろな技術を学習するつもりで取り組んでいるのですが、あまりに簡単に完成してしまったので、学習の機会としてはちょっと物足りなかったと感じています。より深く学習するためには、これをきっかけに本を読んだり、他のデバイスを作成したりすることが必要と感じました。デバイス間通信をするためのSPIやIICに触れてみたかったのですが、今回はBLEを使ったのでSPIやIICを直接的に使う機会がありませんでした。これらの学習は別の機会ですね。
一方で、世の中に出回っている各種のプロダクトは、とても完成度が高く、価値があることに、改めて気づきました。
今回自作した速度計は、上述したように、無線で通信しますが、電池がでかすぎたり、ケーブルがホイールに巻き付いていたりして、全くスマートではありません。デバイスむき出しでは事実上、使えません。
世の中に出回っている速度センサやケイデンスセンサ、これらを用いるサイクルコンピュータは、とてもコンパクトで多機能です。そのようなデバイスを自作するのはとても難しい。自作する際の学習コストや部品のコストを考えると、世の中に出回っているサイクルコンピュータの価値がとても高いことに気づかされます。これはサイクルコンピュータに限らず、どのようなデバイスでも言えそうですね。
最近、自転車でロングライドするために、サイクルコンピュータやサドルバッグなど物色していますが、その際、ついつい、自分の予算とプロダクトの価格を比較して予算内で購入できるようにプロダクト選択しがちです。でも、このような物の選び方を少し考え直すべきかなと思うようになりました。プロダクトの本来の価値、自分にとっての価値を考えて、必要なら予算を増やすとか、予算が増えるまで購入を少し先送りするとか、これらを選択肢として考えるべきのように思えました。各種プロダクトは技術者さんが開発コストをかけて開発しているのだから、そして、それを自分で実現するのはほとんど不可能なのだから、、、価格だけではなく、物を手に入れることで私自身が手にする価値をもっと考えたいですね。
○イチ。
サイクリングを始めるとすぐにこのワードに遭遇します。
あるランドマークを一周することを○イチと呼ぶんだぞと。琵琶湖ならビワイチとか。
で、私も多くの自転車乗りと同様、○イチに魅力を感じてしまうのです。不思議なもので。
と言うわけで浜名湖一周してきました。
今回は、クロスバイクからロードバイクに乗り換えるか否かを検討するための一要素とすべく、ロードバイクをレンタルしてハマイチしてきました。
ロードバイクのポジションはクロスバイクよりもつらそうですし、後方確認もしづらそうなので、そのあたりも実際に走って確認してきました。結果、ロードバイクもありだなと思うようになりました。ポジションは心配するほどつらくなかったですし、後方はクロスバイクより見づらいものの、だからといってロードバイクを避ける理由にはならないと思えました。
浜名湖一周は70km弱あるので、道中、いろいろなことを経験できました。
当然ですが、やはりクロスバイクよりもロードバイクの方が、平均時速が速くなりました。これは魅力ですね。ハンドルから手に伝わってくる振動はロードバイクの方が大きいように思えました。このあたりは車体によっても違うと思いますが。クロスバイクとロードバイクでは、筋肉痛になる部分が違いました。日焼け止めは必須です。
あと、サイクルコンピュータは必須のように思えました。。。。こうやって少しずつ自転車沼に嵌まっていくのでしょうか。
次はどこに行こうか検討中なのですが、実は先日、今乗っているクロスバイクのフリーホイールが壊れてしまいました。逆回転しない。ホイールを丸ごと買い換えるのはちょっともったいないような気がして、フリーボディのみを交換しようと思っているのですが、調べてみるとフリーボディのみを交換するのって結構難しいようです。ハブに合うフリーボディを手に入れるのが難しい。。。。
これは、これはもしかするとロードを買ってしまえと言う啓示なのでしょうか。。。
前回の更新からずいぶんとたってしまいました。
ここのところ少し忙しくしており、更新が先延ばしになっています。いつものことではあるのですが、完全に停止しないように細々と続けていきます。判例研究もアップロードできるようにまとめて更新しなければいけません。
先日、長めのサイクリングをしてきました。
名古屋→岐阜羽島→養老青柳→養老線で移動→桑名→名古屋
といったルートです。自走距離は80km程度です。
岐阜羽島に自転車カフェができているのを発見しましたので、ちょっと覗いてみようかなと思いまして。加えて、以前から興味があったサイクルトレインに乗ってみたくて養老線に乗れるルートを選びました。
たった80km程度の移動ですが、やはり旅行はいいですねえ。日帰りでも充分にリフレッシュできました。それに加えて、自分のサイクリングの方向性も確認できました。
今回のコースでは、木曽三川を越え、山が近くなってきたあたりから、だいぶ気分が変わりました。都会の道路は交通量が多いですし、周囲の景色はどこも大して変わらないのでどうしても移動のために自転車を漕いでいるという側面が強くなってしまいます。でも、周囲の景色に緑が増えてくると、気分もだいぶ違ってきます。
そんなわけで、自分の嗜好としては
家でリラックス<都市部をロングライド<<<<自然豊かな地区をロングライド
と言うことが分かりました。
そうすると、私のサイクリングスタイルとしては、都会の移動は車または輪行ですっ飛ばし、目的地周辺でロングライドするスタイルが良いのだろうなと思います。例えば、ビワイチするなら、全て自走するのもよいですが、米原当たりまで車または電車で移動するのが良いのかなと。。。
次に備えて自転車を車または電車で運ぶための方法を物色中です。
ロングライドしようと思うと、クロスバイクからロードバイクに乗り換えるべきだなと、思い始めます。今のところ、最先端技術を追求してらっしゃるcannondaleか、デザインに一目惚れしたcanyonかどちらかになりそうです。コンポーネントも無線式にするのか従来方式にするのか悩み中です。しばらく楽しみながら物色していこうと考えています。
判例研究の内容を紹介します。
判例研究では可能な限り実務において、特に請求項、明細書の執筆段階において留意すべき実務上の指針を抽出するように心がけています。判決文から個別の事案について●●すべきであったと考察するのではなく、自分たちが今後気をつけるべき事項を、できるだけ汎用性のある状態で特定しようとしています。判例研究によって自分たちが請求項、明細書を書く際の引き出しを増やすことを目指しています。このブログでは少しずつ記録を残し、弊所の弁理士がどのようなことを考えながら請求項、明細書を書いているか紹介していきます。判決や明細書の引用には、当方の編集が加えられており、原文の通りではない部分があります。また、適宜下線などを加えています。
【判決日】 R1.9.11
【事件番号】 H30(ネ)10006
【発明の名称】システム作動方法
【事案の概要】特許権A(特許第3350773号)、特許権B(特許第3295771号)を有する控訴人が、被控訴人に対して損害賠償を請求した。
【高裁判決】 被控訴人は特許権を一部侵害している。
本事件には沢山の争点がありました。
以下のように4回に分けてブログに記録していきます。
本エントリは3回目、特許権Bの侵害論です。
1回目:特許権Aの侵害論
2回目:特許権Aの無効論
3回目;特許権Bの侵害論
4回目:特許権Bの無効論
【本件発明B1】
A 遊戯者が操作する入力手段と,
B この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,
C このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段と
D を有するゲーム機を備えた遊戯装置であって,
E 上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と,
F 上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と,
G 上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段と,
H を備えたことを特徴とする,遊戯装置。
【特許権Bに関する控訴人、被控訴人の主張の概要、裁判所の判断の概要】
争点 | 特許権者:控訴人の主張 | イ号実施者:被控訴人の主張 | 裁判所の判断 |
構成要件E,F
|
請求項に、「特定の状況」とは「画像情報からは認識できない」ものであるという限定はない 振動情報制御手段が「画像情報からは認識できない情報」のみを送出するという限定はない |
「特定の状況」とは「画像情報からは認識できない」ものである 「振動情報制御手段」には,特定の状況にあることが画像情報から認識できる情報をも,体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段は含まない |
①特定の状況 ②振動情報制御手段 |
本件明細書Bの記載によれば、あるの瞬間において,周囲が画像情報からは認識できない情報を,ユーザのみが振動発生手段の振動によって認識できるのであれば,「周囲にその特定の状況を悟られることなく,自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行していく」という本件発明B1の作用効果を奏する。 |
明細書には周囲の人が画像を見ているだけでは特定の状況を認識できず、遊戯者は,周囲の人に特定の状況を悟られることなく秘密の状態の下でゲームを進行できるという作用効果を奏すると記載 |
周囲にその特定の状況を悟られることなくゲームを進行できると共に、振動を体感的に知得できること振動の発生周期が短くなることで高度な現実感やスリルを味わえるという効果を奏する点に技術的意義がある |
|
ロ号 |
ロ号装置 |
ロ号は霊が近いことを霊の画像やフィラメントで認識でき、その状況が画面から認識できないか否かにかかわらず振動させているから構成要件E~Gを充足しない |
ロ号製品は,いずれも, |
実務上の指針
●「特定の状況」について、裁判所は、「特定の状況が、ゲームの全場面に おいて「画像情報からは認識できない」状況である必要はない。」と判断した。オープンエンドの考え方からすると、全場面で「画像情報からは認識できない」状況であるものに限定されるという主張には無理があると考えられる。
●「特定の状況」について、裁判所は、「特定の状況が、ゲームの全場面に おいて「画像情報からは認識できない」状況である必要はない。」と判断した。しかし、構成要件を充足すると認定されたロ号においては、「霊が近くにいることが画面情報から認識できない」状況で、振動が発生するため、「特定の状況」である「霊が近くにいる」状況は、画像情報から認識できない。このようなロ号が構成要件E,Fを充足すると認定された。従って、事実上、「特定の状況」は、「画像情報からは認識できない」状況であると認定されているようにも思えるが、裁判所は、このように認定したとは明言していない。ロ号においては、「霊が近くにいることが画面情報から認識できない」状況で、振動が発生するのであるから、「特定の状況」において「画像情報からは認識できない」情報を体感振動情報信号として送出する構成を有しており、この結果、構成要件E,Fを充足するという判断は妥当と思えるが、「特定の状況」が、「画像情報からは認識できない」状況に限定されるのか否か、可能であれば知りたかったところである。つまり、明細書で、「周囲にその特定の状況を悟られることなくゲームを進行できる」という効果を述べたことによって構成要件Eについて限定解釈されるのか否か判断されていればありがたかった。このような限定解釈がなされるのか否か確定的なことは言えないが、明細書執筆時に効果の記載と請求項の構成との関係を慎重に述べなければいけないことを改めて考え直すいい機会になった。
●被控訴人は、間接侵害についても主張している。すなわち、「ロ号製品が装填されたゲーム機が振動機能をOFFにした状態で使用されることがあるから,ロ号製品は本件発明B1に係る物の生産に「のみ」用いる物に当たらない」旨の主張を行った。所内でもこのような主張はあり得るのではないかという意見はあったが、裁判所は、「ロ号装置が物の発明である本件発明B1の各構成要件の構成を備えている以上,ロ号装置においてユーザが機器の振動機能を実際に使用するか否かは,ロ号製品が「その物の生産にのみ用いる物」に当たるか否かの判断を左右し得る事情ではない。」と認定した。従って、特許発明に係る物の生産が可能なのであれば、生産後にその機能をOFFにできるか否かは、「その物の生産にのみ用いる物」に当たるか否かの判断を左右しないので注意が必要である。
判例研究の内容を紹介します。
判例研究では可能な限り実務において、特に請求項、明細書の執筆段階において留意すべき実務上の指針を抽出するように心がけています。判決文から個別の事案について●●すべきであったと考察するのではなく、自分たちが今後気をつけるべき事項を、できるだけ汎用性のある状態で特定しようとしています。判例研究によって自分たちが請求項、明細書を書く際の引き出しを増やすことを目指しています。このブログでは少しずつ記録を残し、弊所の弁理士がどのようなことを考えながら請求項、明細書を書いているか紹介していきます。判決や明細書の引用には、当方の編集が加えられており、原文の通りではない部分があります。また、適宜下線などを加えています。
【判決日】 R1.9.11
【事件番号】 H30(ネ)10006
【発明の名称】システム作動方法
【事案の概要】特許権A(特許第3350773号)、特許権B(特許第3295771号)を有する控訴人が、被控訴人に対して損害賠償を請求した。
【高裁判決】 被控訴人は特許権を一部侵害している。
本事件には沢山の争点がありました。
以下のように4回に分けてブログに記録していきます。
本エントリは2回目、特許権Aの無効論です。
1回目:特許権Aの侵害論
2回目:特許権Aの無効論
3回目;特許権Bの侵害論
4回目:特許権Bの無効論
【本件発明A1】
A ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,セーブデー
タを記憶可能な記憶媒体を除く。)を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって,
B 上記記憶媒体は,少なくとも,
B-1 所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,
B-2 所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており,
C 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり,
D 上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,
D-1 上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲー
ムプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,
D-2 上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,
E ゲームシステム作動方法。
【特許権Aが無効であるか否かに関する控訴人、被控訴人の主張の概要、裁判所の判断の概要】
争点 | 特許権者:控訴人の主張 | イ号実施者:被控訴人の主張 | 裁判所の判断 |
公知発明1 |
レベル2からのスタートやアイテムの付与はゲーム内容を置き換えるの物に過ぎず拡張ではない 相違点1-1,1-2に加え |
レベル2からのスタートやアイテムの付与は新たな機能をキャラに持たせるものであり、機能の豊富化である。 アイテム付与の際に表示されるメッセージも変わるのであるから場面の拡張に該当する |
|
公知発明1には、後作を単体でプレイしたのでは達成することのできないゲーム内容を楽しめるという作用、機能がないから先行技術と作用機能が共通しない 書き換え可能なディスクを用いる公知発明1に対して書き換えできないROMカセットを適用することに阻害要因がある |
相違点1-1 読み出し専用メディアが公知だから想到容易 相違点1-2 媒体DD1が装填されたという条件のみを所定のキーとしても公知発明1の作用効果は失われないから装填のみを所定のキーとすることに想到容易 媒体を買いそろえていき、複数の媒体を用いてゲームの拡張をする作動方法は周知であった |
DD1を装填しても、レベル16以上のキャラのデータを読み込まなければ拡張ゲームプログラムは起動しない→所定のキーに、媒体の装填は含まれない 相違点1-1,1-2 |
|
公知発明3 |
相違点1-1 公知発明3はROM1,ROM2双方が常に装填されている必要がある 相違点1-2 公知発明3はROM1,ROM2双方が常に装填された状態で起動され、かつ、装填され続けることを条件に拡張ゲームを起動 公知発明3のROMは挿抜できず、入れ替えることなく読み取り可能であるため、入れ替え可能な記憶媒体に適用することに阻害要因がある 公知発明1はセーブデータを使うことに特徴があるため、記憶できないROMを用いた公知発明3に公知発明1を適用することに阻害要因がある |
ROM2が装填→切換キーを読み込んでいる場合、標準+拡張で作動する。
公知発明A1、公知発明3の組合せで本件発明A1に想到する |
動作を検証し、ROM1,ROM2はゲーム装置に装填し続ける必要があると認定 所定のキーに相当するのはROM1が特定のスロットに装填されたという事実のみである ROM1,ROM2の装填の継続は、ゲームを遂行するために必要な動作に過ぎず、所定のキーには該当しない
相違点1 相違点2 相違点3
公知発明3は、相違点2のようにROM1,ROM2の双方を装填している必要があり、この構成を採ることによってゲーム装置が適切に機能しているのであるから、この構成をあえて変更してROM1に記録されたプログラムをROM2にも記録させる動機付けはない。 |
実務上の指針
●阻害要因の主張について
拒絶理由対応の実務において、阻害要因のみに依拠して反論を構成することは少ない。
多くの場合、引用文献と本願請求項の相違点を見つけるか、相違点があるように補正を行い、相違点にかかる構成によって得られる効果が引用文献から予想できないと主張することで進歩性ありの認定を得ようとする。
これ自体は間違いでは無いと思われるが、もっと阻害要因を主張しても良いかもしれない。相違点にかかる構成+効果の主張に加え、阻害要因の主張をするとより効果的と思われるので、少なくとも、全件について阻害要因の存在を検討した方がよい。
セーブデータを記憶可能な記憶媒体を、読み出し専用の記憶媒体に置換することは容易と言われた場合、確かにその通りと考えてしまうかもしれない。記憶媒体の内容を考慮することなく両記憶媒体を比較すると置換容易に見えるかもしれないが、各記憶媒体に記憶されたデータと、そのデータから得られる発明の作用、機能を詳細に分析すれば、置換容易ではないという結論になり得ることが本判例によって示されているので、私たちはおおいに本判例を参考にすべきである。
公知発明3について裁判所は「この構成を採ることによってゲーム装置が適切に機能しているのであるから、この構成をあえて変更してROM1に記録されたプログラムをROM2にも記録させる動機付けはない。」と判断している。「この構成をあえて変更して」相違点にかかる構成を採用する動機付けはない、という主張を汎用的に用いることができるか否か不明であるが、このロジック自体は多くの案件に当てはまりそうである。高等裁判所がこのように判断したのであるから、この判断は審査でも尊重されるべきであり、私たちは、今後、場合に応じてこのロジックを使えるようにしておくべきである。
判例研究の内容を紹介します。
判例研究では可能な限り実務において、特に請求項、明細書の執筆段階において留意すべき実務上の指針を抽出するように心がけています。判決文から個別の事案について●●すべきであったと考察するのではなく、自分たちが今後気をつけるべき事項を、できるだけ汎用性のある状態で特定しようとしています。判例研究によって自分たちが請求項、明細書を書く際の引き出しを増やすことを目指しています。このブログでは少しずつ記録を残し、弊所の弁理士がどのようなことを考えながら請求項、明細書を書いているか紹介していきます。判決や明細書の引用には、当方の編集が加えられており、原文の通りではない部分があります。また、適宜下線などを加えています。
【判決日】 R1.9.11
【事件番号】 H30(ネ)10006
【発明の名称】システム作動方法
【事案の概要】特許権A(特許第3350773号)、特許権B(特許第3295771号)を有する控訴人が、被控訴人に対して損害賠償を請求した。
【高裁判決】 被控訴人は特許権を一部侵害している。
本事件には沢山の争点がありました。
以下のように4回に分けてブログに記録していきます。
本エントリは1回目、特許権Aの侵害論です。
1回目:特許権Aの侵害論
2回目:特許権Aの無効論
3回目;特許権Bの侵害論
4回目:特許権Bの無効論
【本件発明A1】
A ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,セーブデー
タを記憶可能な記憶媒体を除く。)を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって,
B 上記記憶媒体は,少なくとも,
B-1 所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,
B-2 所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており,
C 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり,
D 上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,
D-1 上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲー
ムプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,
D-2 上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,
E ゲームシステム作動方法。
【特許権Aに関する控訴人、被控訴人の主張の概要、裁判所の判断の概要】
争点 | 特許権者:控訴人の主張 | イ号実施者:被控訴人の主張 | 裁判所の判断 |
構成要件D | 請求項の文言から、第2の記憶媒体がゲーム装置に装填される場面で「ゲーム装置が所定のキーを読み込んでいる」条件を充足すればよい 条件充足のタイミングは構成要件として特定されていない |
イ号方法では、「所定のキー」を読み込んでいるかに関わりなく、アペンドディスクプログラムによってゲーム機が作動するが、本件発明A1では「装填」→「所定のキーが読み込まれているか判断」→「ゲーム装置の作動」という構成が必須である | 請求項に、「所定のキー」を読み込む時点を限定する記載はない 明細書から、「所定のキー」の読み込みの有無で標準のゲームに加え、拡張のゲームを楽しめる点に技術的意義があると認められる 「所定のキー」を読み込む時期は、「第2の記憶媒体がゲーム装置に装填され」ている場面であれば足りる |
意見書の記載は、プログラム及び・又はデータを読み込む順序や、読み込み・判定のタイミングを本件発明A1の構成要件として特定することを意図した記載ではない | 意見書において、本件発明A1の特徴として、所定のキーが読み込まれているか否かを判定するステップがあることが述べられており、当該ステップの存在が当然の前提とされていた | 意見書の記載は、 ゲーム機が作動する前の時点で「所定のキー」が読み込まれているか否かを判定する構成に限定する趣旨であると理解することはできない。 |
|
構成要件B | 「拡張ゲームプログラム」は、より高度かつ豊富なゲーム内容を実現する「ための」(=「役に立つ」)ゲームプログラムを意味し、 「単独で」高度化、豊富化するものに限定されない |
イ号方法において、アペンドディスクと本編ディスクのプログラムを組み合わせて機能の豊富化等を実施するため、「拡張ゲームプログラム」を包含した第2の記憶媒体は存在しない | 請求項によれば、「拡張ゲームプログラム」は第2の記憶媒体にその全部が記憶されているものを意味する 明細書には、「拡張ゲームプログラム」が第1の記憶媒体、第2の記憶媒体に分かれて記憶されている構成について示唆はない |
「所定のキー」と「拡張ゲームプログラム」とが異なる概念であることは,両概念が相互に排他的・択一的な関係にあることを意味するものではない。 「所定のキー」がゲーム結果等のゲームデータやプログラムの一部を含むことを妨げない(0032) |
イ号方法において、キー情報が「拡張ゲームプログラム」に該当するならば、当該キー情報は「所定のキー」になり得ない。従って、「所定のキー」を包含する第1の記憶媒体は存在しない | 0032の記載は,所定のキーにゲームデータやプログラムの一部を含むことが可能である旨を示したものであって、第1の記憶媒体に記憶されたゲームデータやプログラムを拡張ゲームプログラム/及びデータとして使用することが可能である旨を示すものであるとは理解できない | |
技術的範囲の属否 |
イ-9号等 イ-1号等 |
||
間接侵害の成否 | 本件発明A1及びA2の「準備されており」とは、第1の記憶媒体と第2の記憶媒体がユーザにより購入可能な形で提供されている状態を意味する | 本件発明A1及びA2の「準備されており」とは、実施行為者において各記憶媒体がゲーム装置に装填可能に準備することを意味する | 構成要件D,D-1,D-2の記載によれば、ユーザが第2の記憶媒体のみを保有し、第1の記憶媒体を保有しない場合でも、ユーザにおいて「上記第2の記憶媒体」を「上記ゲーム装置に装填」すると、「所定のキーを読み込んでいない場合」に該当し、「標準ゲームプログラムのみによってゲーム装置を作動させる」ことは可能である |
請求項、明細書の記載において、「準備」とは、「第2の記憶媒体がゲーム装置に装填されるとき」に、実施行為者において第1の記憶媒体を保有することであると解釈すべき根拠となる記載はない。 |
実務上の指針
●方法の発明の記載法
方法の発明において、特別な理由がなければ、請求項、明細書、共に処理順序が限定される記載は避ける。
今回の特許権Aでは問題にならなかったが、「○○のとき」というような、時点であると読まれ得る表現は避けた方が良い。
●データ/プログラムの記憶媒体について
技術的には、データやプログラムが記憶される記憶媒体を各種の態様で実現できる。
従って、出願時に発明のあらゆる態様を想定する事が難しいとしても、データ/プログラムの記憶場所の限定は可能な限り避ける。
例えば、○○データが読み込まれた場合に、○○という処理をするというような書き方をし、プログラムの記憶場所が限定されないようにする、特定のプログラムによって実行されると限定されないようにする、プログラムがどういう特徴であるという記述を避けて処理の内容だけ記述する、など。
また、サーバ、クライアントシステムで、発明に利用するデータがサーバ、クライアントのどちらかに存在していても良いし、データの一部がサーバ、一部がクライアントに存在していても良い事例は多数存在する。このような場合にもデータの保存場所が限定されないようにする。例えば、サーバ、クライアントで実現されても良いし、スタンドアロンで実現されても良いし、データはサーバ、クライアントのどちらに保存されていても良いし、一部がサーバ、一部がクライアントに保存されても良いと書くなど。このような限定解釈回避の記述は、定形にして全案件に記述する。
本件特許0032には、所定のデータがプログラムでも良いという趣旨の記述があり、限定解釈を避けるための配慮がなされている。このような配慮は請求項文言のできるだけ多くの文言で行うべき。本件であれば、所定のデータだけでなく、拡張ゲームプログラムにも同様の配慮ができるとよい(但し、無効審判との関係で、拡張プログラムが第1記憶媒体に記憶されていても良いという主張はできなかったのかもしれない)。
記憶媒体が「準備され」という表現は参考になる。仮に「記憶媒体を準備し、、、、当該記憶媒体がゲーム装置に装填されるとき、、、○○プログラムでゲーム装置を作動させる」と書いてあった場合、文言上、システム作動方法の実施主体が記憶媒体を準備すると解釈される可能性が出てくる。似たような配慮は、装置クレームでも必要である。特定のシステムに必須で含まれる構成要件は「○○部」と表記して良いが、含まれなくても良い構成は「○○部」の特徴部分に記述する。例えば、何かを表示させる機能を有する装置であっても、表示部と一体化されていない態様で流通し得るなら、「○○を表示する表示部を備える装置」とするのではなく、「表示部に○○を表示させる表示制御部を備える装置」などとする。
第1回目で速度計を試作しました。
今回は、試作した速度計を自転車に取り付けてみました。
ガムテで取り付けただけです。
家の周囲の数ブロックを走ってみましたが、期待通りに機能していました。
ホール素子と磁石との距離が遠すぎるのではないかと心配しましたが、ひとまず正常に動作しました。
クランプ等を利用して、ホール素子と磁石を強固に取り付けてもよいのですが、、、
やっぱり現状の構成はいまいちです。
まず、フロントフォークに取り付けたホール素子とハンドルに取り付けたarduinoとを有線で接続するのはスマートではない。
ホール素子と磁石が近いので、振動でホール素子がずれると磁石に接触して破壊されるおそれがある。
LCDが屋外で見えない。
などなど。。。ま、本当は最初からわかってたんですけど。
速度計を実際に組み上げることはできましたので、これからは、もう少しスマートに実現する方法を考えようと思っています。
まずは、無線化から。ホール素子以外のセンサの使用も検討します。
サイクルコンピュータの自作を少しずつ始めています。
まずは、速度計を作ってみようと思っています。車輪の回転を検出し、ディスプレイに表示し続ける。これだけ。実現方法はいろいろありそうですが、まずは
arduino
回転検出センサ
ディスプレイ
これだけで組み上げてみようと思います。
回転検出センサは、とりあえずホールセンサにしました。車輪の1カ所に磁石を取り付け、ホールセンサをフロントフォークに取り付け、車輪の回転を検出し、1回転に要する時間を計測します。で、車輪の周長から1回転の距離を算出し、距離/時間で車速を出そうとしています。
スペックが決まりましたので部品の購入です。ネットでいろいろと調べると、seeed studioという中国の会社にたどり着きました。電子工作界では有名だそうです。この会社は、groveというシリーズの部品を販売しており、このシリーズであれば、arduinoに取り付けたbase shieldというインタフェースにコネクタを接続するだけで適切なピンに部品を接続できます。ホールセンサも、ディスプレイもこのインタフェースを使えば半田いらずでとても楽に取り付けできます。なので、この会社に注文しましたところ、先日届きました。深圳から12日程度で届いてしまうのでとても便利です。
grove規格の部品を使って速度計を仮組みしてみました。私は、知識の吸収のために電子工作をしているのですが、grove規格の部品があまりに簡単に動作するので、勉強のためには不向きかもしれません。例えば、ディスプレイは、コネクタに接続し、ウェブサイトで公開されているサンプルプログラムを読み解けば、すぐに動作させることができます。このディスプレイはI2Cでarduinoとディスプレイが通信するのですが、I2Cについて全く知らなくてもarduino IDEでプログラムを書けば所望の表示が得られます。I2CやSPIなど、一度は経験に基づいて学習しておきたいので、別の機会を設けて学習したいと思っています。
サンプルプログラムを使えば、ホールセンサの検出結果の利用もとても容易です。というわけで、机上ではあっという間に速度計を仮組みすることができました。
ホールセンサに磁石を近づけると割込が発生し、1回転とカウントし、カウント結果に基づいて計算した車速がディスプレイに表示されました。
問題は、自転車への取り付けです。手持ちの磁石では、ホールセンサで検出可能な距離が2cm程度しかないため、かなり強力な磁石を用いるか、ホールセンサと磁石の距離をかなり近づけるかしないと動作しそうにありません。後者の構成は、振動によってセンサの位置がずれ、スポークに巻き込まれるようなことが発生し得るため、できるだけ避けたいと考えています。磁石やホールセンサをうまく取り付けるための仕組みも考えないと行けません。3Dプリンタがあれば専用品を作れると思いますが、あまりそちら方面の沼に近づくのも危険なのでよく考えないといけません。
今後も少しずつ進めていこうと考えています。
弊所では不定期ですが所内で判例研究をしています。
判例研究では可能な限り実務において、特に請求項、明細書の執筆段階において留意すべき実務上の指針を抽出するように心がけています。判決文から個別の事案について●●すべきであったと考察するのではなく、自分たちが今後気をつけるべき事項を、できるだけ汎用性のある状態で特定しようとしています。判例研究によって自分たちが請求項、明細書を書く際の引き出しを増やすことを目指しています。このブログでは少しずつ記録を残し、弊所の弁理士がどのようなことを考えながら請求項、明細書を書いているか紹介していきます。判決や明細書の引用には、当方の編集が加えられており、原文の通りではない部分があります。また、適宜下線などを加えています。
【判決日】 H23.1.31
【事件番号】 H22(ネ)10031
【担当部】知財高裁第2部
【発明の名称】流し台のシンク
【事案の概要】本件特許(特許第3169870号)を有する特許権者が本件特許に基づいて、被告が製造、販売、展示するシンクの差止を請求した。
地裁では差止が認められず、高裁では差止が認められた逆転判決。
【争点】イ号製品は、特許発明の構成要件C1を充足するか。
【地裁判決】 イ号製品は、特許発明の構成要件C1を充足しない。
【高裁判決】 イ号製品は、特許発明の構成要件C1を充足する。
【本件発明1】
A1 前後の壁面の、上部に上側段部が、深さ方向の中程に中側段部が形成されて、
B1 前記上側段部および前記中側段部のいずれにも同一のプレートを、掛け渡すようにして載置できるように、前記上側段部の前後の間隔と前記中側段部の前後の間隔とがほぼ同一に形成されてなり、かつ、
C1 前記後の壁面である後方側の壁面は、前記上側段部と前記中側段部との間が、下方に向かうにつれて、奥方に向かって延びる傾斜面となっている
D1 ことを特徴とする流し台のシンク。
本件発明1
イ号製品参考図
裁判所の判断
●地裁
特許権者は、構成要件C1において、「上側段部と中側段部との間が、全長にわたって傾斜面となっている必要はない」と主張。これに対し、裁判所は明細書の記載として以下を引用
1)明細書の記載として以下を引用
目的:
「上側段部と中側段部とのそれぞれに,上側あるいは中側専用の調理プレート等のプレートを用意する必要のない,流し台のシンクを提供することにある。」
課題解決手段:
「後の壁面である後方側の壁面は,上側段部と中側段部との間が,下方に向かうにつれて奥方に向かってのびる傾斜面でつながって,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とがほぼ同一に形成されており,それら上側段部と中側段部とに,選択的に同一のプレートを掛け渡すようにして載置することができる。」
実施形態:
【0010】上側段部、中側段部、傾斜面の具体的構成
【0018】作用効果:内部空間について
【0027】実施形態に限定されない旨の記述
効果:
「上側段部と中側段部とに,選択的に同一のプレートを掛け渡すようにして載置することができる」
「上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とを容易にほぼ同一にすることができる。」
2)出願経過における補正
拒絶を解消するために構成要件C1を追加したことを指摘。
検討内容
構成要件C1はこの課題を解決するための構成であると理解することができる。
明細書には、傾斜面の形状が実施形態に限定されないと記述されている。
地裁では、「本発明は,上述した実施の形態に限定されるわけではなく,その他種々の変更が可能である。…また,シンク8gの後方側の壁面8iは,上側段部8fと中側段部8nとの間が,第2の段部8bを経由して,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる上部傾斜面8pとなっていなくとも,上側段部8fと中側段部8nとに同一のプレートが掛け渡すことができるよう,奥方に延びるように形成されているものであればよく,その形状は任意である。」という明細書の記載に基づいて、後方側の壁面は、「上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とを容易にほぼ同一にすることができる形状のものであればよい」と判断した。
しかし、以下の明細書の記載内容
「後方側の壁面8iは,第2の段部8bから下が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている。」(【0010】)
「後方側の壁面8iは,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面(上部傾斜面8pおよび下部傾斜面8q)となっており,」(【0018】、【図4】)
の記載から、
地裁は、「後方側の壁面の傾斜面が,上側段部の下の第2の段部である8bから下の部分が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっており,その傾斜面は,中側段部まで続き,さらに,中側段部により分断されるものの,中側段部から下の部分まで続くような形態のものであることが理解」できると指摘した。
さらに、地裁は、内部空間について、以下の明細書の記載
「シンク8gの内部空間は,その開口部8jから奥方に広がっている。、、、この内部空間が広くなったシンク8gで,大きな調理器具や食材を洗う等することが楽にできる。、、、内部空間を,開口部8jを通して,シンク8gで調理器具や食材を洗う等の作業をする者は,容易に見ることができる。」
を指摘し、以下のように判断した。
「傾斜面となっている後方側の壁面も,そのような内部空間を形成すべきものであることが理解できる。」
地裁では、以上の明細書の記述と、補正によって構成要件C1が追加された出願経過に照らして、構成要件C1は、
「後方側の壁面の傾斜面が,中側段部によりその上部と下部とが分断されるように後方側の壁面の全面にわたるような,本件明細書に記載された実施形態のような形状のものに限られないと解されるものの,その傾斜面は,少なくとも,下方に向かうにつれて奥方に向かって延びることにより,シンク内に奥方に向けて一定の広がりを有する「内部空間」を形成するような,ある程度の面積(奥行き方向の長さと左右方向の幅)と垂直方向に対する傾斜角度を有するものでなければならないと解するのが相当である。」
と指摘し、被告製品は構成要件C1を充足しないと判断した。
●高裁
構成要件C1について、被告は以下の①②を主張。
①後方側の壁面が,・・・下方に向かうにつれて,奧方に向かって延びる傾斜面」との意義は,後方側の壁面のすべてが,上側段部と中側段部との間において,下方に行くに従って徐々に奥方に向かって延びる傾斜面となっていることを要し,垂直面を含んでいる場合は,同要件に該当しない
②たとえ,「下方に向かうにつれて,奧方に向かって延びる傾斜面である」を呈する形状部分が存在したとしても,それが「棚受の突起の下方」部分である場合には,「後方側の壁面」には該当しない
この主張に対して裁判所は以下のように判断。
明細書の引用カ所は地裁と同等。
構成要件C1は課題を解決するための構成であるという認定に関し、地裁と大きく異なる点はない。しかし、明細書の記載から構成要件C1の技術的範囲を特定するロジックが大きく異なる。
高裁でも根拠として以下を引用している。
「本発明は,上述した実施の形態に限定されるわけではなく,その他種々の変更が可能である。・・・また,シンク8gの後方側の壁面8iは,上側段部8fと中側段部8nとの間が,第2の段部8bを経由して,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる上部傾斜面8pとなっていなくとも,上側段部8fと中側段部8nとに同一のプレートが掛け渡すことができるよう,奥方に延びるように形成されているものであればよく,その形状は任意である。」
しかし、結論は「,後方側の壁面の形状は,上側段部と中側段部との間において,下方に向かうにつれて奥方に向かってのびる傾斜面を用いることによって,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とを容易に同一にすることができるものであれば足りるというべきである」であり、全く逆である。
被告は、リブの下面の傾斜している部分について、これは、棚受けの機能を有する部分であって壁面ではない等の主張をしているが、高裁では、被告製品が構成要件C1を備えている以上、被告主張は失当であるとして一蹴されている。
実務上の指針
●明細書の記載について
高裁の引用部分を分析すると、構成要件C1の限定解釈をしなかった根拠は主に以下の2点が明細書に記載されていたことにある。
(1)上述した実施の形態に限定されるわけではなく,その他種々の変更が可能であるという趣旨の記述。
(2)上側段部8fと中側段部8nとに同一のプレートが掛け渡すことができるよう,奥方に延びるように形成されているものであればよく
(1)は実施形態に限定されないという確認的記載
(2)は発明の思想を作用的に記した記載
これらについて明細書で言及することで、限定解釈を防ぐことができたようだ。
この種の確認的記載や発明の思想を伴った「○○であればよく」という記載は常に書くべきと考えられる。
将来争点になる部分を出願当初から予想するのは難しいので、可能な限り多くの構成要件について、同様の立場で書くべきと考えられる。
●構成要件C1の表現方法について
後方側の壁面は「下方に向かうにつれて、奥方に向かって延びる傾斜面」である。明細書内に限定解釈を防ぐ記述(1)(2)があることにより限定解釈はされなかったが、「下方に向かうにつれて、奥方に向かって延びる」という表現は、直感的には、下方に向かうにつれて、連続的に奥行きが変化し、前後の間隔が徐々に広がっていくと解釈しやすい。
このため、事務所では、このような表現を避けるか、このような表現を使う場合には上述の(1)(2)ような記述を厚く書いておくことにしている。
前者の場合、表現方法として複数の選択肢を常に持っておき、事案に応じて適切な表現を選ぶようにしたい。選択肢としては、特定の2つの位置に着目し、2つの位置のみで関係を述べる方法、例えば、「後方側の壁面の第1位置の奥行き長が、第1位置よりも下方の第2位置の奥行き長より短い」と表現する方法が挙げられる。他にも、「下方に向かうにつれて、奥方に向かって延びる傾斜面を含む」という表現が適切であるかどうかも検討したい。