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どて

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私の味覚の分解能は、世間一般の平均的な人のものよりも、
とてもシンプルな形で完成されたものであるらしく、
よほど強烈な匂いを放っていたり、
よほど見た目がグロテスクなものでない限りは、
お腹が空いていれば
ほとんどたいていのものは美味しいと感じます。
なので、私が美味しいと感じる食べ物に関する細かな分析は苦手です。
微妙な味の違いはほとんどわかりません。
日本ではマグロが大きくなるまでの間にいろんな名前で呼ばれたりするけれど、
英語では一言、TUNAで終わってしまうように、
私も一言、これ美味しいね、で終わってしまいます。
なので、私は昔から、食べることや飲むことに関して、
世間一般の人に比べると、比較的執着心も思い入れも少ないです。
そんな乏しい味覚の私ですが、
時々懐かしく思い出して、あああれをもう一度食べたいなと
思うものが少しだけあります。
それは例えば祖母が昔よくおやつに作ってくれた吉野葛の葛湯だったりします。
葛湯ぐらい、お湯を注げばいいだけですから、
大人になった私はいつでも作れるのですが(今日も作った)、
祖母の作ってくれたものは、なぜか格別に美味しく感じたのでした。
前置きが長くなりましたが、今日ここに書きたいのは、
名古屋に来て初めて食べた、「どて」と「ひつまぶし」についてです。
20代後半の頃、まだ名古屋で働き始めて間もない頃、
職場の近くにちょっとした小料理屋さんがありました。
昼食を取りに偶然そのお店ののれんをくぐり、
そこでは、串カツの定食か、見慣れない二文字のものの定食かの
二択しかなかったので、揚げ物は脂っこいからあまり好きではないので、
何かわからなかったけど、見慣れない二文字のものの定食をオーダーしました。
そこで食べたのが、人生初の、どて飯でした。
ご飯の上に焦げ茶色のどろっとしたものがかけられていて丼状態になっていて、
その上に細かく刻まれたネギがパラパラと散らされていました。
一口ほおばると、
濃厚な味噌の味(ただし甘すぎず、しょっぱすぎず、濃すぎず、薄すぎない)を
ネギがさっぱりと緩和させていて、
それはそれはとても上品で味わい深く、とてもとても、美味しい食べ物でした。
「どて」という2文字の言葉が、一般的に知られている言葉だと
その頃まだ知らなかったので、この「どて飯」はこのお店オリジナルの
お料理なのだと思っていました。
それから私は足繁くその店に通っては
すかさずカウンター席に腰掛け(カウンター席しかない)、
どて飯ばかりを注文するようになっていました。
「おじさん、どて、ちょーでゃー」
どて飯がその店オリジナルのものでないことを知ったのはそれからしばらくしてからでした。
でも、別のお店で食べるどては、
味が濃すぎたりしょっぱすぎたりして、どうも美味しくないのです。
鳥の雛が、初めて見た動くものをお母さんと思うように、
このお店の「どて」の味が、私の中のどての基本になっているからかもしれないのですが、
でも今までのところ、ほかのいろんなお店でどてを食べた機会はあったのですが、
どうも美味しくないのです。何かが違うのです。
やはりあの店の、あのどてがどうしてももう一度食べたいのでした。
いまもやっているのだろうか・・。
それから、ひつまぶしも名古屋に来て初めて食べました。
もっとも有名なH軒にはまだ一度も行ったことがないのですが、
それでも、ひつまぶしのような食べ方をしたことのない私にとって
ひつまぶしはとても新鮮でした。
第一ステージはまあいいとして、
第二ステージの、香ばしいウナギと、山椒をはじめとした薬味とのコラボレーションは
           実に見事だということ。
         (因みにネギよりもわさびよりも山椒とのコラボレーションが一番気に入っています)
第三ステージの、だし汁をかけて食べる食べ方は、そんな風にして食べたことがなかったので、
           ちょっとした驚きでした。
以上が、名古屋の食べ物のうち私がとても好きなもの2品です。
あと、私がまたぜひ食べたいと思うものは、上海蟹の味噌です。
これも、多少美化された思い出なのかもしれないけれど、でも私の記憶の中では
とてもとても美味しかった食べ物の一つです。


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