週末(7月15~17日)の間にブログを書こうと思っていたのですが、運悪く特許庁のJ-PlatPatがメンテのため使えず、書こうと思っていた記事に必要な情報を入手できない。他にも週末にJ-PlatPatを使ってやることがあったのですがそれもできない。ちょうど、有料の特許データベースの契約を検討中だったのですが、そちらが加速しそうな感じです。
気を取り直して、J-PlatPatが使えなくても書ける記事を急遽模索してみました。ちょっと安易ですが、日本の特許データベースがだめなら米国の特許データベースを使って書ける記事にします。
今回は、STAP細胞の米国特許について取りあげます。STAPというのは、刺激惹起性多能性獲得(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)のことで、少し前に大いに話題になったものです。
あのときは論文の内容の信憑性が話題になりましたが、もちろん特許出願もなされており、米国や日本も含めて9か国に出願されているようです。STAP細胞についての米国特許出願(14/397080)の状況をUSPTOのPAIRで調べたところ、このような記録(重要なイベントのみ抜粋)となっていました。
10-24-2014 Transmittal of New Application
01-08-2015 Preliminary Amendment
07-06-2016 Non-Final Rejection
01-06-2017 Affidavit-traversing rejections or objections rule 132
01-06-2017 Applicant Arguments/Remarks Made in an Amendment
05-18-2017 Final Rejection
06-30-2017 Applicant Initiated Interview
最初の拒絶理由通知に応じて意見書と発明者(バカンティ氏)の宣誓供述書が提出されました。しかし、審査官の心証は覆らず、2017年5月18日にファイナルの拒絶理由通知が出されました。
最初とファイナルの拒絶理由通知で審査官が使用した根拠条文は以下のものです。
【35U.S.C.112】(a)The specification shall contain a written description of the invention, and of the manner and process of making and using it, in such full, clear, concise, and exact terms as to enable any person skilled in the art to which it pertains, or with which it is most nearly connected, to make and use the same, and shall set forth the best mode contemplated by the inventor or joint inventor of carrying out the invention.
【35U.S.C.101】Whoever invents or discovers any new and useful process, machine, manufacture, or composition of matter, or any new and useful improvement thereof, may obtain a patent therefor, subject to the conditions and requirements of this title.
【35U.S.C.102】A person shall be entitled to a patent unless
(b) the invention was patented or described in a printed publication in this or a foreign country or in public use or on sale in this country, more than one year prior to the date of the application for patent in the United States, or
審査官はSTAP細胞の論文が取り下げられたことや否定的な再現試験の結果を当然知っており、112条(明細書が実施可能要件を満足しない点)と101条(発明がうまく働かない結果、有用性が認められない点)について突いてきています。これだけ発明の再現性(反復可能性)について否定的な状況だと見過ごすわけにいかなかったのでしょう。こういう事件を担当する審査官は大変ですね。
ちなみに、私が担当した案件で一度だけ日本の審査官に『このような発明品は実在しないから発明が不明確であると』と指摘されたことがあります。出願人もまじめに出願しているのだから『実在しない』なんて失礼にも程があると憤りを感じましたが、証拠写真を提出して『本当にあるよ!』と反論して済ませました。バカンティ氏の宣誓供述書も概ね『STAP細胞は本当にあるよ!』という内容なんだと思いますが、簡単には信用してもらえないということのなでしょうか。
話をSTAP細胞の拒絶理由通知に戻すと、102条についてはiPS細胞の中山先生の特許(MEF細胞を毒素(toxin)に曝すことで多機能細胞が生成できるとの記載)が引用されています。ちなみに最後に行われたメインクレームの補正は以下の通りで、哺乳動物体細胞に与えるストレスの一つとして毒素(toxin)を含んでいます。
以上のようなファイナルの拒絶理由通知の後のイベントとして、ついこの前の6月30日に『Applicant Initiated Interview Summary (PTOL-413)』というステータスが記録されていました。このInterview Summaryを見てみると、以下のような記載となっていました。
Applicant’s representative discussed the retracted publication by the applicant’s and potential narrowing claims. The examiner agreed with that the narrowing claims might overcome the enablement rejection depending on how much the claims narrowed and what is in the specification.
電話インタビューの結果、クレームを減縮することにより拒絶理由が解消し得ることに審査官が同意しているようです。102条についてはクレーム減縮が有効であるように思います。しかし、112条と101条の拒絶理由の適否は、STAP細胞の再現性にかかっており、クレーム減縮で解決できるような質のものでないように思います。また、電話インタビューの記録にあるように、拒絶を克服できるか否かは『depending on・・・what is in the specification』となっています。いまさらニューマターを導入することなく、明細書の記載をどうにかできるのか疑問に思います。
どのようにクレーム減縮がなされるのか、本当にクレーム減縮で拒絶理由を解消できるのか非常に気になるところです。