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量子コンピュータ関連技術の特許出願統計

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 量子コンピュータ関連技術の特許出願について統計をとってみました。
 ここ数か月のニュースを見ていますと、人工知能関連のニュースはずいぶん少なくなってきたように思えます。ある開発者さんからは、人工知能で実現できることと実現できないことが少しずつ分かってきたと聞きました。一時期のブームは終了し、より現実的なフェーズに移行したのでしょうか。そういえば、人工知能について流行期が終わり、幻滅期に差し掛かったというニュースもありました。

 私は、弁理士という職業柄、最先端のあらゆる技術に興味がありまして、以前から量子コンピュータが気になっていました。
 そこで、量子コンピュータ関連の特許出願の動向を調べてみました。統計は、以前人工知能関連技術について実施したものと同様の手法です。(公開年AND量子コンピュータ)で得られた件数を集計しました。検索にはJ-PlatPatとUSPTOのPatent Application Full Text And Image Databaseを使用しました。例えば、米国であれば、公報全文にquantum computerが含まれる2016年公開の出願を、(PD/1/1/2016->12/31/2016 and SPEC/” quantum computer “)というパラメータで検索しました。
 このような検索では、一言「量子コンピュータで実現してもよい」と書いた程度の明細書もヒットしますので、検索結果から多くのことを抽出できるとは思いませんが、それでも出願動向はわかるのではないかと考えています。
 結果は図1です。棒グラフは量子コンピュータというキーワードを含む出願の公開件数であり、数値は左の縦軸で示されています。折れ線グラフは棒グラフで示された公開件数をその年の全公開件数で除して規格化した値であり、数値は右の縦軸で示されています。


 まず、日米双方で出願件数が少ないことに驚きました。最近ですと2020年ごろまでにIBMやGoogleが量子コンピュータのクラウドサービスを始めるというニュースが報じられるなど、新聞等で量子コンピュータのニュースを見ることも増えてきました。そして、それらのニュースは、基礎研究段階を終え、実現が近づいているというニュアンスで報じられることも多いです。
 それなのに、日本で50件以下、米国で300件以下の公開数って。。。実際には、まだ技術的なブレイクスルーがなく、実現に必要な要素技術の開発もまだまだ先になるというフェーズなのでしょうか。
 日米の差に着目すると、全期間にわたって米国における公開件数が日本における公開件数を圧倒しています。例えば、2016年を見ますと、日米の件数は16件、204件であり、12.75倍もの差があります。この年の米国の公開件数は日本の公開件数の1.68倍でしたので、全産業分野での公開件数の比をはるかに超える差がついてしまっています。ちょっとした衝撃です。今回の検索結果が日米の技術力の差を正確に示していると言う気はありませんが、日米において量子コンピュータの開発成果に埋めようのない差がつくかもしれないという危惧は生じます。
 また、2016年の16件という公開件数は、日本国内でほとんど研究成果が出願されていないといえそうな数値です。一昔前までは、量子コンピュータの基礎的な研究において、日本の研究者がある程度の存在感を持っていたと思うのですが、今はどうなってしまったのでしょうか。
 特許の統計を集計していると、ほとんどの場合、日本の出願は、2008年頃のリーマンショックの影響で出願数が激減し、その影響が現在でも色濃く残っていることが示唆されます。量子コンピュータの研究や出願もおそらく不況の影響を受けたのだと思いますが、それにしてもこの存在感のなさは衝撃です。まさか、日本での研究成果が日本で出願されず米国のみで出願されているってこともないでしょうし。。。詳細は把握していませんが、量子コンピュータについてもAIと同様に日米で埋めがたい差がついてしまうのではないかと心配になります。私は、理学部の物理学科を卒業し、工学部の応用物理系の大学院を修了しました。その頃、主な科目の中で量子力学が一番楽しかったと記憶しています。いかにも大学で扱う物理のような気がしてまして。弁理士となった後、いつの日か量子コンピュータの出願に携わる日が来ないだろうかと期待していたのですが、上述の検索結果を見ると当面そういう日は来ないように思えますね。。。


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