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人口知能開発の疑似体験から考える特許化戦略4

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 第2回のエントリはこちら
 第3回のエントリはこちら
ニューラルネットワークに関連した開発においては、
 1.入力データ、出力データの選定
 2.ニューラルネットワークの構造決定
以上、2つのステージでたくさん発明がうまれそうです。
1.においては、目的を達成するためにどのような入力(または出力)とすべきか。これを決定すること自体が重要な発明と言えます。今回の開発では、「文書表現上の癖」や「論理展開上の癖」で執筆者を高精度に推定可能であると検証できたこと自体が発明と言えます。
 最近はやりのディープニューラルネットワークであれば、どのような入力データが目的達成のために重要であるのか考えることなく、多数のデータを入力してディープニューラルネットワークによる学習を進めることで有用な結果が得られる可能性があります。
 しかし、そうであっても、目的の達成に大きく寄与する入力データが多数の入力データの中のどれなのかを特定することが重要であると私は考えます。特許請求項は必須の要素のみを書くべきだからです。

 

   必須の入力データAを特定できた場合の権利化戦略としては、種々の戦略が考えられます。ここではいくつかピックアップして書きたいと思います。
●まず、学習済のデータで推定を行う装置を以下のような請求項として表現した場合の戦略をいくつか挙げたいと思います。
「入力データAを取得する取得部と、
 機械学習済の情報に基づいて前記入力データAを出力データBに変換する変換部と、
 出力データBに基づいて○○を推定する推定部と、を備えるC装置。」
・入力データA(場合によっては出力データBも)が特徴であり、機械学習の過程は特徴としない。
 第1回~第3回のエントリで体験したように、入力データを決定することが発明であり、目的を達成するための重要なファクターといえます。また、機械学習を進めるための具体的な技術は汎用的な技術で充分というケースは多いと考えられます(第1回~第3回のエントリで示した例もこれに該当するように思えます)。
・学習済のデータで推定を行い、出荷後には学習しない装置においては、機械学習を行う学習部を構成要件に含めないような請求項にすることが重要になると考えられます。学習部が構成要件に含まれると、出荷前に学習し、出荷後に学習しない装置を直接侵害で差し止めること等が不可能になります。
・ただし、「機械学習済の情報に基づいて」という文言で不明瞭とならないように請求項または明細書で対策をする必要があるでしょう。機械学習を進めるための具体的な技術が汎用的な場合は、汎用的であることを明細書で説明し、発明の特徴でないならばそのことを明細書で説明して実施可能要件を充足するようにしておくべきです。
・機械学習後のパラメータ、例えば、重み係数やバイアス等は、機械学習によって作成されるため、プロダクトバイプロセスの審査基準に適合する内容になるように明細書を書いておくと好ましいと考えます。
・発明の特徴は入力データAにあるため、入力データの特徴を上位概念から下位概念に展開するのが好ましいと考えます。第1回~第3回のエントリでの例であれば、句読点の統計、接続詞の統計、文末表現の統計など、切り口はたくさんありそうです。

 

●次に、学習を行うことが可能な装置を以下のような請求項として表現した場合の戦略をいくつか挙げたいと思います。
「サンプル入力データaと正解データbの組に基づいて前記サンプル入力データaを前記正解データbに変換するパラメータを機械学習する学習部と、
 入力データAを取得する取得部と、
 前記パラメータに基づいて入力データAを出力データBに変換する変換部と、を備えるD装置。」
・ユーザーが学習と変換(入力データAの出力データBへの変換)を実施できる製品が販売されるのであれば、このクレームが有効でしょう。
・学習部を備える学習装置(取得部と変換部を備えていない装置)という請求項も検討の価値があります。
・サンプル入力データaと正解データbの組は必須の組のみを独立請求項に書き込み、開発過程で検討した他の組(例えば、正解率の向上に寄与したが、最も重要ではないような組)は従属請求項で展開すると良いと考えられます。
・利用者が装置に学習させるのであれば、方法の請求項も有効と考えられます。

 

●最後にニューラルネットワークの構造ですが、ニューラルネットワークの構造が新規であり、かつ、進歩性があれば特許はとれると考えられます。しかし、この場合は慎重に請求項を作成する必要があると考えられます。ニューラルネットワークの構造を特徴とした請求項が権利化された場合であっても、第三者の被疑製品がその請求項を利用していることを立証することが困難である場合が多いからです。
 ニューラルネットワークの構造は外部から見てブラックボックスになる場合が多いと予想されるため、ニューラルネットワークの構造自体を特許にしても有効ではない場合は多いと考えられます。第三者の被疑製品がその請求項を利用していることを立証することが事実上不可能であれば、侵害品対策のために出願しても意味がありません。他の事情(例えば、遅かれ早かれ学会で発表してしまうなど)がなければ、出願の可否から検討すべきと考えます。
・ニューラルネットワークの構造で特許を取る必要があるならば、当該ニューラルネットワークの構造を利用する装置を解析した場合に、観測できる特徴を見つける必要があると考えます。特許出願前の打ち合わせでは、観測できる特徴を見つける作業を行う必要があります。発明者様に特徴を見つけるための解析等をお願いすることも多くなるように思われます。

 

 なお、ニューラルネットワークの構造ではありませんが、機械学習で最適化されたパラメータを出願するのは有効と考えられます。例えば、機能材料の組成や材料作成の際の温度、圧力等の最適数値範囲を機械学習で特定し、当該数値範囲を請求項とすることが考えられます。
 この場合、数値範囲内の実測結果と数値範囲の境界での実測結果を明細書に記述することが通常の実務ですが、機械学習によって数値範囲を導出した過程を明細書に記述することで明細書の記載要件(実施可能要件等)を充足することは可能でしょうか?
 機械学習によって数値範囲が得られ、その範囲での効果が論理的であれば、機械学習の過程を示すことで特定の数値範囲の発明を実施可能に明細書が記述されていることに間違いはなく、記載要件が充足するケースが出てきても良いと私個人は感じます。審査官、裁判官がどのように判断するのか今のところ不明ですが、興味深いトピックのように思えます。


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