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プログラム著作物の争点(その3)

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前回までの記事

プログラム著作物の争点(その1)
プログラム著作物の争点(その2)

  前回(その2)では、プログラム著作物(著作権法10条1項10号)の著作権侵害が成立するか否かは、原告プログラムと被告プログラムとの間で『類似し、かつ、創作性がある部分』がどこであるかに依存する”ということまでお話ししました。
 
 今回は『類似している部分』がどこにあればプログラムの著作権侵害が成立するのかについて「書類作成支援ツール事件(大阪地裁H14/7/25 H12(ワ)2452)」を挙げて話をします。
 本件のプログラムは、表計算ソフトの入力シートにてユーザの入力を受け付け、入力された内容に基づいて高知県に提出するのに適式な申請書類を作成する機能を実現させるものです。プログラムの実体は表計算ソフトのマクロです。少し長いですが、まずは以下の判決文の抜粋をご覧下さい。

 原告プログラムのコードと被告プログラムのコードを比較すると、原告プログラムでは、標準モジュール部分にプログラムが記載されているのに対し、被告プログラムでは、帳票を表すワークシート一枚一枚にマクロを割り当てて短いプログラムが記載されているという特徴があり、その結果、二つのソフトウエアの間には、プログラムの表現及び機能において、次の相違点があることが認められる。
ア 原告プログラムにはプログラムの冒頭に変数宣言が存在するが、被告プログラムは変数を全く使っていないため変数宣言がない。
イ 原告プログラムには、ファイルを開くときのプログラムにおいて、subプロシージャとして定義された”gamen” “deffile” “defpath”を実行するようになっているが、被告プログラムではsubプロシージャを実行するような記述はなされておらず、ファイルを開くドライブをCに固定し、フォルダも”syorui”に固定している。
 ・・(中略)・・
カ 原告プログラムにはエラーが出た場合の処理(「システムの異常の可能性があります。販売者まで連絡をして下さい。」などと画面に表示する。)を行うプログラムがある。被告プログラムは、エラーが出た場合には、”On Error Resume Next”、”On Error Go To 0″という宣言によりエラーをとばす処理をしている。
 以上によれば、被告プログラムは、原告プログラムとは構造が著しく異なり、原告プログラムに設けられている機能の多くを有しておらず、プログラムの具体的な表現といえるコードにも類似する部分がないから、構造、機能、表現のいずれについてもプログラムとしての同一性があるとは認められない。したがって、被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案したものとはいえない。
 原告は、被告が原告プログラムをデッドコピーしたことの徴表として、被告プログラムの帳票部分の特徴を指摘するが、原告プログラムに含まれる帳票部分に著作物性を認められないことは前記のとおりであるから、帳票部分において被告プログラムが原告プログラムに酷似し、前者が後者をデッドコピーした徴表があるとしても、被告プログラムが原告プログラムを複製又は翻案したことを肯定する根拠とはならない。

 要するに、この判決では、プログラムのソースコードが、原告プログラムと被告プログラムとの間で類似し、かつ、創作性がある部分となっていないとプログラム著作物の著作権侵害にはならないということが述べられています。
 図3を用いて説明します。円が原告のプログラムの範囲を示し、そのうちグレーの部分が原告プログラムと被告プログラムとで類似している部分を示し、●が創作性のある部分を示しています。
 今回の事件では、表計算ソフト上でユーザが入力を行う入力シートがほぼ同一であり、最終的に出力される申請書類も同一でした。入力シートにおいて入力された内容に基づいて申請書類を生成する各工程における処理(機能)についてもほぼ同じであったはずです。そのため、図3に示すように、入力から出力までの工程の全体にわたる機能的な部分において広く類似していたと予想されます。
 しかし、●で示すように、本判決において原告プログラムのうち創作性が認められたのはソースコードであり、そのソースコードについては類似性が認めらませんでした。そのため、この事件ではプログラム著作物の著作権侵害は否定されました。
 ここで、著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)です。ここだけを読むと、プログラムにおいて利用者が感得できるように表現される部分(おもにUI画面や最終出力結果)がマネされればプログラム著作物の著作権侵害となると思いがちですが、それだけでは著作権侵害にはならないため注意が必要です。前記の判決に記載されるように、プログラムの具体的な表現はあくまでもソースコードであり、著作権法が保護すべき価値はソースコードに存在するということなのです。かなりの部分で類似しているのにも拘わらず、原告には残念な結果に...

が、しかし、
今回の事件はこれだけでは終わりませんでした。なんと、著作権侵害にはあたらないけど損害賠償請求と差止請求が認められました。その理由を述べた判決部分は以下のとおりです。

民法709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。他人のプログラムの著作物から、プログラムの表現として創作性を有する部分を除去し、誰が作成しても同一の表現とならざるを得ない帳票のみを抜き出してこれを複製し、もとのソフトウエアとは構造、機能、表現において同一性のないソフトウエアを製作することが、プログラムの著作物に対する複製権又は翻案権の侵害に当たるとはいえないことは、前記のとおりである。しかし、帳票部分も、高知県の制定書式により近い形式のワークシートを作るため、作成者がフォントやセル数についての試行錯誤を重ね、相当の労力及び費用をかけて作成したものであり、そのようにして作られた帳票部分をコピーして、作成者の販売地域と競合する地域で無償頒布する行為は、他人の労力及び資本投下により作成された商品の価値を低下させ、投下資本等の回収を困難ならしめるものであり、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきである。したがって、被告は、原告に対し、本件不法行為により原告が被った損害を賠償する責任を免れない。

だそうです。なんとかして帳票部分(入力シート)について創作性を認めて図表の著作物(著作権法10条1項6号)の著作権侵害として処理できなかったのかと思います。

『が、しかし』以降は、このシリーズの本筋の話ではありません。
今回お伝えしたいことは、プログラムのソースコードが、原告プログラムと被告プログラムとの間で類似し、かつ、創作性がある部分となっていないとプログラム著作物の著作権侵害にはならないということです。

次回は、ソースコードの創作性と特許の進歩性との関係について判例を挙げて説明しようと思います。

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プログラム著作物の争点(その2)

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明けましておめでとうございます。

昨年に引き続きプログラム著作物の争点について書かせてもらいます。

 

前回(その1)では、プログラム著作物の判決文のキーワードの解析結果から、

・プログラム著作物の侵害訴訟では『創作性』と『類似』が揉めやすい。

・プログラム著作物の侵害訴訟では『創作性』と『類似』とがセットで揉めやすい。

と言える、というところまでお話ししました。

 

なぜでしょう?

プログラム著作物の著作権侵害が成立するためには、原告プログラムと被告プログラムとを比較したときに、これらの間で『類似している部分』が、原告プログラムのうち『創作性がある部分』であることが必要だからです。著作権法では、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(2条1項1号)が保護されるのであり、プログラムのうち創作性がない部分はいくらマネをしても侵害にはなりません。

下の図1では、『類似している部分』が大きいですが『創作性がある部分』を捉えていないので著作権侵害が成立しないことになります。一方、図2では、図1ほど『類似している部分』が大きくないですが『創作性がある部分』を捉えており、著作権侵害が成立し得ることになります。なお、原告・被告は一審が基準です。

 

また、図1,図2では、プログラムが加工するデータの加工度に注目した横軸(入力→出力)と、プログラムの具体性に注目した縦軸(機能→ソースコード)で、プログラムの部分を把握しようとしています。今回はこうしましたが、他にもプログラムの部分を把握するのに適切な座標軸は考えられると思います。

ちなみに、海賊版プログラムは、全体が『類似している部分(しかも同一)』となるため、原告プログラムのどこかに『創作性がある部分』が存在すれば侵害が成立します。多くの場合、海賊版プログラムのように単純ではなく、部分的に類似するという状況となるため、『創作性』と『類似』とがセットで揉めることとなります。

 

図2のように、『類似し、かつ、創作性がある部分』が存在すれば、必ずプログラムの著作権侵害が成立するのでしょうか?

その答えは、図2において“『類似し、かつ、創作性がある部分』がどこであるかに依存する”ということになります。このことは、『創作性』と『類似』とがセットで揉めた判例の積み重ねによって定まってきています。

今回はこれぐらいにしておいて、次回は『類似している部分』がどこにあればプログラムの著作権侵害が成立するのかについて具体的な判例を挙げて話をしたいと思います。

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プログラム著作物の争点(その1)

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 所属している弁理士会の著作権委員会の活動のからみで、プログラム著作物に関する民事裁判(主に侵害事件)の判例を広く浅く検討しました。ここではその成果を数回に分けて紹介します。もちろん、真の成果は弁理士会から公表される予定ですので、ここで公表できるのはあくまでも成果の副産物です。

 

 第1回ではプログラム著作物の判決文のキーワードの解析結果を紹介します。

 

 解析の方法は、プログラム著作物に関する最近の判例(80個)の判決文のテキストファイルを用意し、それらを争点となりそうなキーワードで横断的に検索するというものです。一通り目を通すのも大変なので...ササッと、PC(Grepソフト)でやってしまいます。一瞬で終わります。PCってすごい。

 その結果(一部)は下の表のとおりです。各セルの数字は、キーワードの出現回数で、10回以上出現しているセルは赤くなっています。最高記録は、『創作性』の160回です。『創作性』が争点になっている判例の数が多く、次いで『類似』が争点になっている判例の数が多いことが分かります。また、『創作性』の出現回数と『類似』の出現回数の相関係数を計算したところ、0.87と極めて強い相関が見られました。

 以上のことから、

・プログラム著作物は『創作性』と『類似』が揉めやすい。

・プログラム著作物は『創作性』と『類似』がセットで揉めやすい。

ということが言えそうです。今回はこれぐらいにしておいて、次回は『創作性』に焦点をあてて、もう少し判決文の内容に踏み込みます。

 

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