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特許庁の統計情報をいろいろまとめてみました。

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 特許庁等が開示している情報をもとに、いろいろまとめてみました。あまり役に立たないというか、既出の情報ですが、せっかくまとめたのでここで紹介させてもらいます。

【グラフ1】


 まずは、年ごとの特許出願数のグラフ(グラフ1)です。停滞気味の日本だけだと気が滅入るので、景気づけに中国の出願数を入れてみました。JPOは日本特許庁、SIPOは中国特許庁のことです。
2016年の中国の出願は軽く100万件を超えてしまいました。ものすごい伸びです。中国特許文献の蓄積数もものすごい伸びているはずなので、世界公知を採用する日本の特許庁が中国の文献もサーチしようと取り組んでいることにも頷けます(詳細)。なお、2016年の日本と中国の特許出願数をそれぞれの人口で割ってみたところ、日本人1人あたりの出願件数は、中国人1人あたりの出願件数の2.5倍程度でした。

 

 

【グラフ2】

 

 次は、年ごとの実用新案・意匠・商標出願数のグラフ(グラフ2)です。こちらは日本だけです。実用新案と意匠の出願数は特許出願数と同様に停滞しています。一方、2016年の商標出願数が過去十年で最高となっています。その理由の一つを何となく思いつくのですが、ここでは言及しません。

 

 

【グラフ3】

 

 次は、在外者による特許出願数の主要国別のグラフ(グラフ3)です。中国だけは伸び続けています。中国について、グラフ1と見比べるとグラフ3の伸びが緩やかであるように見えますが、伸び率(前年比)を計算すると、ほぼ同じような値(前年比≒1.2倍程度)となります。

 

 

【グラフ4】

 

 次は、特許査定率のグラフ(グラフ4)です。これもありふれたグラフですが、せっかくまとめたので紹介させてもらいます。日本以外については最近のデータを見つけることができませんでした。EPO以外は似ています。

 

 

【グラフ5】

 

 次は、特許審査(待ち)期間の主要国比較のグラフ(グラフ5)です。日本はついに10ヶ月を切りました。2012年のJPOの審査官1人あたりの審査件数はUSPTOの3倍程度、EPOの5倍程度というデータが特許庁にありました。外部の登録調査機関を利用しているとは言え、日本の審査官はすごいです。

 

 

【グラフ6】

 

 次は、審査(待ち)期間の法域別のグラフ(グラフ6)です。商標と意匠は安定しており、特許が商標と意匠に追い着いてきました。

 

 

【グラフ7】

 

 最後は、早期審査ありの審査(待ち)期間の法域別のグラフ(グラフ7)です。一度、着手してしまえば、どの法域も審査に要する期間は大きく変わらないのでしょうか。グラフ6と比較すると、どの法域でも早期審査の事情説明書を提出することの効果は大きいと言えます。

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プログラム著作物の争点(その4)

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前回までの記事

プログラム著作物の争点(その1)
プログラム著作物の争点(その2)
プログラム著作物の争点(その3)

  前回(その3)では、プログラムのソースコードが、原告プログラムと被告プログラムとの間で類似し、かつ、創作性がある部分となっていないとプログラム著作物の著作権侵害にはならないということをお話ししました。このことが判示されている典型的な2個の判決文(一部)を紹介します。

  • 「製図プログラム事件」(東京地裁 平成13(ワ)17306号)
    著作権法は,プログラムの具体的表現を保護するものであって,機能やアイデアを保護するものではないところ,特定の機能を果たすプログラムの具体的記述が,極くありふれたものである場合に,これを保護の対象になるとすると,結果的には,機能やアイデアそのものを保護,独占させることになる。したがって,電子計算機に対する指令の組合せであるプログラムの具体的表記が,このような記述からなる場合は,作成者の個性が発揮されていないものとして,創作性がないというべきである。
  • 「宇宙開発事業団事件」(知財高裁  平成18(ネ)10003号)
    プログラムに著作物性があるといえるためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れているものであることを要するものであって,プログラムの表現に選択の余地がないか,あるいは,選択の幅が著しく狭い場合には,作成者の個性の表れる余地もなくなり,著作物性を有しないことになる。

 プログラムを作成者は、機能を実現できるソースコードの選択肢のなかから実際に記述するものを選択していくことになります。この選択肢のなかからどれを選んだかというところに、プログラム作成者の個性が発揮され、そこにプログラム著作物の創作性が認められると、上記の判例は言っています。ソースコードの選択肢が多い機能を実現するプログラムほど、創作性が認められやすいということになります。あくまでも、ソースコードの選択肢が多い機能であることが重要であって、機能そのものの新しさや突飛さは重要な意味をなさないということになります。なお、宇宙開発事業団事件の判決文はその後の判決で多く引用されており、現状の判断基準になっていると考えてよいでしょう。

 このように、プログラムが実現する機能の新しさや突飛さはログラム著作物として保護されるか否かの判断において重要な意味をなさない一方で、プログラム特許においては、機能の新しさ(新規性)や突飛さ(進歩性)によって特許性(創作性)の有無が決定づけられます。逆に、プログラム著作物において創作性が認められるようなソースコードをクレームに書いても、そもそも発明であることが否定されて特許にはなりません(コンピュータ・ソフトウエア関連発明の特許審査基準の2.2.3)。

 図4のように、著作権法と特許法とでは双方とも権利客体としてプログラムが規定されているものの、プログラムのうち保護される部分がまったく異なっていることをお分かり頂けたかと思います。

 このような結論を、さも簡単に述べることができるのも、(その1)で述べたように、多くの判例で散々揉めてきた歴史の賜であると言えます。

 

 今回はこのぐらいにしておいて、次回、最終回は、「混銑車自動停留ブレーキ及び連結解放装置プログラム事件」(知財高裁  平成21(ネ)10024号)を紹介します。この判例では、上述した判断基準を前提として特許の新規性とプログラム著作物の創作性との関係が議論されています。

 

 

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2017年中国審査基準改正

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中国特許審査基準のプログラムに関する部分が2017年4月に改正されるということで、改正審査基準を見てみました。あくまでも分かる範囲ですが、改定点には以下の2点が含まれます。

1)ビジネスモデルも含めてプログラムを記録した記録媒体が特許の対象となり得る。
2)プログラムと協働する装置の装置クレームの記載要件が緩和される。

今回の審査基準改正を考慮し、クレームと明細書の記載はどうすべきについては、今後の検討事項です。何か分かり次第、報告させてもらいます。現在、繁忙期でそこまで手が回らないというのが正直なところです。とりあえず、改正の内容だけ紹介させてもらいます。

一、第二部第一章第4.2節の改正
《原文》
在《专利审查指南》第二部分第一章第4.2节第(2)项之后新增一段,内容如下:
【例如】
涉及商业模式的权利要求,如果既包含商业规则和方法的内容,又包含技术特征,则不应当依据专利法第二十五条排除其获得专利权的可能性。
《和訳》
特許審査基準の第二部第一章第4.2節第(2)項の後に追加があり、内容は以下の通り:
【例えば】
ビジネスモデルのクレームが、商業規則と方法の内容を含み、さらに技術的特徴を含んでいれば、特許法第25条を根拠に、その特許の獲得可能性を排除すべきではない。
《解説》
どのような技術的特徴をどの程度まで含んでいればよいのかは分かりませんが、ビジネスモデルも特許になり得るようです。

二、第二部第九章第2節第一段の改正
《原文》
将《专利审查指南》第二部分第九章第2节第(1)项第一段中的
“仅仅记录在载体(例如磁带、磁盘、光盘、磁光盘、ROM、PROM、VCD、DVD 或者其他的计算机可读介质)上的计算机程序”修改为“仅仅记录在载体(例如磁带、磁盘、光盘、磁光盘、ROM、PROM、VCD、DVD 或者其他的计算机可读介质)上的计算机程序本身”。
《和訳》
特許審査基準の第二部第9章第2節第(1)項第一段の中の『記録媒体(例えば磁気テープ、磁気ディスク、CD、磁気ディスク、ROM、PROM、DVD、VCD、その他のコンピュータ読取可能な媒体)上のコンピュータプログラム』は、『記録媒体(例えば磁気テープ、磁気ディスク、CD、磁気ディスク、ROM、PROM、DVD、VCD、その他のコンピュータ読取可能な媒体)上のコンピュータプログラム自体』へと改正。
《解説》
ここでは特許とならないものとして『記録媒体上のプログラム』が挙げられていたところ、それが『記録媒体上のプログラム自体』へと改正されました。プログラムが記録媒体と不可分にクレームされていれば、よさそうな印象を受けます。

二、第二部第九章第2節第三段の改正
《原文》
将《专利审查指南》第二部分第九章第2节第(1)项第三段第一句中的“仅由所记录的程序限定的计算机可读存储介质”修改为“仅由所记录的程序本身限定的计算机可读存储介质”。
《和訳》
特許審査基準の第二部第9章第2節第(1)項第三段第一句中の「記録されたプログラムだけにより限定されたコンピュータ読取可能な記録媒体」を「記録されたプログラム自体だけにより限定されたコンピュータ読取可能な記録媒体」へと改正。
《解説》
ここでも特許とならないものとして『プログラムによって限定された記録媒体』が挙げられていたところ、それが『プログラム自体によって限定された記録媒体』へと改正されました。すいません、うまく翻訳できず、プログラム自体によって限定ということの真意が読み取れません。意味が分かったら、ここで報告させてもらいます。

三、第二部第九章第3節の改正
《原文》
删除《专利审查指南》第二部分第九章第3节第(3)项中的例9。
《翻訳》
第二部第九章第3節第(3)項の例9を削除。
《解説》
ある言語処理を行うことにより学習内容を決定する学習システム(装置)において、処理を行うプログラムのモジュールがクレームの構成要件に含まれているものが特許の対象とならないものとして例示されていましたが、この例が削除されました。

四、第二部第九章第5.2節の改正(1)
《原文》
将《专利审查指南》第二部分第九章第5.2节第1段第1句中的“即实现该方法的装置”修改为“例如实现该方法的装置”。
《翻訳》
特許審査基準の第二部第9章第5.2節第1段第一文の中の「方法を実現させる装置」を「例えば方法を実現させる装置」へと改正。
《解説》
文章の全体は、「コンピュータプログラムに関するクレームを、方法クレームとして書いても、“例えば”当該方法を実現させる装置クレームとして書いてもかまわない」というように改正されました。“例えば”が挿入されたことによって、プログラム記録媒体のクレームが特許され得るようになった印象を受けます。

四、第二部第九章第5.2節の改正(2)
《原文》
将《专利审查指南》第二部分第九章第5.2节第1段第3句中的
“并详细描述该计算机程序的各项功能是由哪些组成部分完成以及如何完成这些功能”修改为“所述组成部分不仅可以包括硬件,还可以包括程序”。
《翻訳》
特許審査基準の第二部第9章第5.2節第1段第三文の中の「コンピュータプログラムの各機能がどの構成部で如何に果たされるかについて詳細に記述しなければならない。」を「ハードウェアだけでなく、プログラムも構成部分に含むことができる」へと改正。
《解説》
プログラムが関連する装置クレームはどう書かれるべきかを述べた文章の改正です。プログラムも装置クレームの一部を構成できるように改正されたと思われます。

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プログラム著作物の争点(その3)

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前回までの記事

プログラム著作物の争点(その1)
プログラム著作物の争点(その2)

  前回(その2)では、プログラム著作物(著作権法10条1項10号)の著作権侵害が成立するか否かは、原告プログラムと被告プログラムとの間で『類似し、かつ、創作性がある部分』がどこであるかに依存する”ということまでお話ししました。
 
 今回は『類似している部分』がどこにあればプログラムの著作権侵害が成立するのかについて「書類作成支援ツール事件(大阪地裁H14/7/25 H12(ワ)2452)」を挙げて話をします。
 本件のプログラムは、表計算ソフトの入力シートにてユーザの入力を受け付け、入力された内容に基づいて高知県に提出するのに適式な申請書類を作成する機能を実現させるものです。プログラムの実体は表計算ソフトのマクロです。少し長いですが、まずは以下の判決文の抜粋をご覧下さい。

 原告プログラムのコードと被告プログラムのコードを比較すると、原告プログラムでは、標準モジュール部分にプログラムが記載されているのに対し、被告プログラムでは、帳票を表すワークシート一枚一枚にマクロを割り当てて短いプログラムが記載されているという特徴があり、その結果、二つのソフトウエアの間には、プログラムの表現及び機能において、次の相違点があることが認められる。
ア 原告プログラムにはプログラムの冒頭に変数宣言が存在するが、被告プログラムは変数を全く使っていないため変数宣言がない。
イ 原告プログラムには、ファイルを開くときのプログラムにおいて、subプロシージャとして定義された”gamen” “deffile” “defpath”を実行するようになっているが、被告プログラムではsubプロシージャを実行するような記述はなされておらず、ファイルを開くドライブをCに固定し、フォルダも”syorui”に固定している。
 ・・(中略)・・
カ 原告プログラムにはエラーが出た場合の処理(「システムの異常の可能性があります。販売者まで連絡をして下さい。」などと画面に表示する。)を行うプログラムがある。被告プログラムは、エラーが出た場合には、”On Error Resume Next”、”On Error Go To 0″という宣言によりエラーをとばす処理をしている。
 以上によれば、被告プログラムは、原告プログラムとは構造が著しく異なり、原告プログラムに設けられている機能の多くを有しておらず、プログラムの具体的な表現といえるコードにも類似する部分がないから、構造、機能、表現のいずれについてもプログラムとしての同一性があるとは認められない。したがって、被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案したものとはいえない。
 原告は、被告が原告プログラムをデッドコピーしたことの徴表として、被告プログラムの帳票部分の特徴を指摘するが、原告プログラムに含まれる帳票部分に著作物性を認められないことは前記のとおりであるから、帳票部分において被告プログラムが原告プログラムに酷似し、前者が後者をデッドコピーした徴表があるとしても、被告プログラムが原告プログラムを複製又は翻案したことを肯定する根拠とはならない。

 要するに、この判決では、プログラムのソースコードが、原告プログラムと被告プログラムとの間で類似し、かつ、創作性がある部分となっていないとプログラム著作物の著作権侵害にはならないということが述べられています。
 図3を用いて説明します。円が原告のプログラムの範囲を示し、そのうちグレーの部分が原告プログラムと被告プログラムとで類似している部分を示し、●が創作性のある部分を示しています。
 今回の事件では、表計算ソフト上でユーザが入力を行う入力シートがほぼ同一であり、最終的に出力される申請書類も同一でした。入力シートにおいて入力された内容に基づいて申請書類を生成する各工程における処理(機能)についてもほぼ同じであったはずです。そのため、図3に示すように、入力から出力までの工程の全体にわたる機能的な部分において広く類似していたと予想されます。
 しかし、●で示すように、本判決において原告プログラムのうち創作性が認められたのはソースコードであり、そのソースコードについては類似性が認めらませんでした。そのため、この事件ではプログラム著作物の著作権侵害は否定されました。
 ここで、著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)です。ここだけを読むと、プログラムにおいて利用者が感得できるように表現される部分(おもにUI画面や最終出力結果)がマネされればプログラム著作物の著作権侵害となると思いがちですが、それだけでは著作権侵害にはならないため注意が必要です。前記の判決に記載されるように、プログラムの具体的な表現はあくまでもソースコードであり、著作権法が保護すべき価値はソースコードに存在するということなのです。かなりの部分で類似しているのにも拘わらず、原告には残念な結果に...

が、しかし、
今回の事件はこれだけでは終わりませんでした。なんと、著作権侵害にはあたらないけど損害賠償請求と差止請求が認められました。その理由を述べた判決部分は以下のとおりです。

民法709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。他人のプログラムの著作物から、プログラムの表現として創作性を有する部分を除去し、誰が作成しても同一の表現とならざるを得ない帳票のみを抜き出してこれを複製し、もとのソフトウエアとは構造、機能、表現において同一性のないソフトウエアを製作することが、プログラムの著作物に対する複製権又は翻案権の侵害に当たるとはいえないことは、前記のとおりである。しかし、帳票部分も、高知県の制定書式により近い形式のワークシートを作るため、作成者がフォントやセル数についての試行錯誤を重ね、相当の労力及び費用をかけて作成したものであり、そのようにして作られた帳票部分をコピーして、作成者の販売地域と競合する地域で無償頒布する行為は、他人の労力及び資本投下により作成された商品の価値を低下させ、投下資本等の回収を困難ならしめるものであり、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきである。したがって、被告は、原告に対し、本件不法行為により原告が被った損害を賠償する責任を免れない。

だそうです。なんとかして帳票部分(入力シート)について創作性を認めて図表の著作物(著作権法10条1項6号)の著作権侵害として処理できなかったのかと思います。

『が、しかし』以降は、このシリーズの本筋の話ではありません。
今回お伝えしたいことは、プログラムのソースコードが、原告プログラムと被告プログラムとの間で類似し、かつ、創作性がある部分となっていないとプログラム著作物の著作権侵害にはならないということです。

次回は、ソースコードの創作性と特許の進歩性との関係について判例を挙げて説明しようと思います。

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プログラム著作物の争点(その2)

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明けましておめでとうございます。

昨年に引き続きプログラム著作物の争点について書かせてもらいます。

 

前回(その1)では、プログラム著作物の判決文のキーワードの解析結果から、

・プログラム著作物の侵害訴訟では『創作性』と『類似』が揉めやすい。

・プログラム著作物の侵害訴訟では『創作性』と『類似』とがセットで揉めやすい。

と言える、というところまでお話ししました。

 

なぜでしょう?

プログラム著作物の著作権侵害が成立するためには、原告プログラムと被告プログラムとを比較したときに、これらの間で『類似している部分』が、原告プログラムのうち『創作性がある部分』であることが必要だからです。著作権法では、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(2条1項1号)が保護されるのであり、プログラムのうち創作性がない部分はいくらマネをしても侵害にはなりません。

下の図1では、『類似している部分』が大きいですが『創作性がある部分』を捉えていないので著作権侵害が成立しないことになります。一方、図2では、図1ほど『類似している部分』が大きくないですが『創作性がある部分』を捉えており、著作権侵害が成立し得ることになります。なお、原告・被告は一審が基準です。

 

また、図1,図2では、プログラムが加工するデータの加工度に注目した横軸(入力→出力)と、プログラムの具体性に注目した縦軸(機能→ソースコード)で、プログラムの部分を把握しようとしています。今回はこうしましたが、他にもプログラムの部分を把握するのに適切な座標軸は考えられると思います。

ちなみに、海賊版プログラムは、全体が『類似している部分(しかも同一)』となるため、原告プログラムのどこかに『創作性がある部分』が存在すれば侵害が成立します。多くの場合、海賊版プログラムのように単純ではなく、部分的に類似するという状況となるため、『創作性』と『類似』とがセットで揉めることとなります。

 

図2のように、『類似し、かつ、創作性がある部分』が存在すれば、必ずプログラムの著作権侵害が成立するのでしょうか?

その答えは、図2において“『類似し、かつ、創作性がある部分』がどこであるかに依存する”ということになります。このことは、『創作性』と『類似』とがセットで揉めた判例の積み重ねによって定まってきています。

今回はこれぐらいにしておいて、次回は『類似している部分』がどこにあればプログラムの著作権侵害が成立するのかについて具体的な判例を挙げて話をしたいと思います。

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プログラム著作物の争点(その1)

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 所属している弁理士会の著作権委員会の活動のからみで、プログラム著作物に関する民事裁判(主に侵害事件)の判例を広く浅く検討しました。ここではその成果を数回に分けて紹介します。もちろん、真の成果は弁理士会から公表される予定ですので、ここで公表できるのはあくまでも成果の副産物です。

 

 第1回ではプログラム著作物の判決文のキーワードの解析結果を紹介します。

 

 解析の方法は、プログラム著作物に関する最近の判例(80個)の判決文のテキストファイルを用意し、それらを争点となりそうなキーワードで横断的に検索するというものです。一通り目を通すのも大変なので...ササッと、PC(Grepソフト)でやってしまいます。一瞬で終わります。PCってすごい。

 その結果(一部)は下の表のとおりです。各セルの数字は、キーワードの出現回数で、10回以上出現しているセルは赤くなっています。最高記録は、『創作性』の160回です。『創作性』が争点になっている判例の数が多く、次いで『類似』が争点になっている判例の数が多いことが分かります。また、『創作性』の出現回数と『類似』の出現回数の相関係数を計算したところ、0.87と極めて強い相関が見られました。

 以上のことから、

・プログラム著作物は『創作性』と『類似』が揉めやすい。

・プログラム著作物は『創作性』と『類似』がセットで揉めやすい。

ということが言えそうです。今回はこれぐらいにしておいて、次回は『創作性』に焦点をあてて、もう少し判決文の内容に踏み込みます。

 

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