ここのところ、有名日本企業が米国ITCにて特許侵害の原告や被告になっているニュースを立て続けに見ました。ニコンが被告となったニュースやソニーが被告となったニュースもありましたし、ソニーが原告で富士フイルムが被告という有名日本企業同士が対決しているというニュースもありました。
なんだかすごそうだということで、ITCについて簡単に調べてみました。
ITCは、米国の国内産業の保護を使命とする機関であり、知的財産に関する問題に限らず、貿易に関する問題について調査責任を持つ準司法的な政府機関です。ITCは、関税法337条(https://www.usitc.gov/intellectual_property/about_section_337.htm)に基づいて、侵害輸入品が米国に輸入されることを税関に停止させるための排除命令を出すための調査(準司法的な手続)を行います。この調査は、大統領が任命した6名の委員による委員会と、行政裁判官(AIJ)によって行われます。行政裁判官が審理した内容の可否を、最終的に委員会が判断する審理構造となっています。
ITCは、米国の国内産業の保護を使命としていますので、排除命令を受けるためには原告が対象特許等に関連する米国国内産業を有しているかその準備中であることが必要になります。そのため、いわゆるパテントトロールを含むNPE(Non-Practicing Entity)は排除命令を受けることが困難なようです。従って、NPEによるITCへの提訴の割合は、地裁における侵害訴訟よりも遙かに少ないようです(https://www.usitc.gov/intellectual_property/337_statistics_number_...)。ただし、上記URLの統計のようにNPEによるITCへの提訴は0ではなく、以下の事件のように複数の日本有名企業がNPEによって提訴されてしまっているケースもあります(https://pubapps2.usitc.gov/337external/3727)。
陪審員制ではなく、知的財産の専門家による調査によって16ヶ月程度(https://www.usitc.gov/intellectual_property/337_statistics_...)の短期間で決定がなされる点等において、ITCは米国の地裁に侵害訴訟を提訴するよりも優位なようです。もちろん、ITCでは輸入の排除命令による救済が受けられるに留まりますので、損害賠償や輸入以外の実施行為の差止を希望する場合には、地裁に侵害訴訟を提起するしかありません。2016年においては、地裁が約4500件に対し、ITCが54件に過ぎません。それでもITCの被告となる日本企業は米国に輸出を行うような企業に限られますし、原告となる日本企業は米国に製造拠点等を有する企業に限られますので、ニュースに出た場合のインパクトは大きくなりますね。
次に、これまでITCに日本企業がどれぐらい関わってきたかについて調べてみました。ITCのホームページ(https://pubapps2.usitc.gov/337external/)には2008年10月以降の事件のオンラインデータベースが公開されており、簡単に検索をすることができるようになっています。2008年10月よりも前の事件についてもリストをダウンロードできるようになっています。
下のグラフは、原告と被告が日本企業となっている事件の数の推移を示しています。
比較のために日本(JP)だけでなく、中国(CH)とドイツ(DE)のデータも載せています。これは当然のことですが、米国の国内産業を保護する日本と中国とドイツのいずれの企業も原告よりも被告になる事件の数が多くなっています。日本と中国の企業が被告になった事件の数がドイツの企業よりも多く、日本の企業は中国の企業と同様に標的にされている印象を受けます。一方で、日本は、中国やドイツよりも原告となった事件の数が多いことが分かりました。国内での侵害訴訟件数が他の国と比較して少なく、日本企業はおとなしい印象がありましたが、踏ん張りどころ(米国市場)では踏ん張っているのだなあと実感しました。